既存治療が無効な難治性の痒みは、患者のquality of lifeを低下させる深刻な問題である。皮膚バリア機能の破綻を伴うアトピー性皮膚炎(AD)患者では表皮内神経線維が稠密化し、抗ヒスタミン薬が奏功しない難治性の痒みを発症する。バリア機能の破綻は神経線維の伸長と退縮に関わる分子の発現バランスを乱すが、その産生機序は全くの不明である。本研究では痒みの難治化の鍵となる神経反発因子に着眼し、表皮角化細胞における神経反発因子の発現制御機序を分子レベルで解明し、内在性の神経反発因子の発現を誘導するADの新規止痒薬の開発を目指して研究を行った。平成27年度は、神経反発因子セマフォリン3A(Sema3A)のプロモーター領域の詳細な解析を行った。その結果、レチノイド関連オーファン受容体α(RORα)がSema3Aの発現に関与する転写因子の一つであることが明らかとなった。RORα作動薬を正常ヒト表皮角化細胞に添加すると、Sema3Aの発現がmRNA及びタンパク質レベルで促進された。Sema3A発現誘導剤の開発にあたり、RORαは標的分子の一つとなる可能性がある。 皮膚バリア機能破綻に伴い、表皮内のカルシウム濃度勾配に異常が生じる。バリア機能の破綻した表皮においてSema3Aの発現が減少するメカニズムを解明するために、培地中のカルシウム濃度を下げて強制的に分化を停止し、一時的にカルシウム濃度勾配が破綻した状態に類似した状態を作成した。その結果、分化誘導を継続した群と比較して、Sema3Aの発現が有意に減少した。この実験系にある種のサイトカインを添加すると、添加6時間後にSema3Aの発現が約50%抑制された。このことは表皮のカルシウム濃度勾配の消失がSema3Aの発現に影響を及ぼすことを示唆した。
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