研究課題/領域番号 |
26860389
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
井上 明俊 関西医科大学, 医学部, 助教 (50709152)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 痒み / NMDA受容体 / NR2B |
研究実績の概要 |
慢性的な痒みの発生および維持における機序は慢性疼痛と比べて、これまでほとんど研究が進んでいない。初めに、慢性的な痒みも慢性疼痛と同様の分子機構により制御されているのかを明らかにするために、慢性疼痛の発生、維持に異常を示すNR2Bの1472番目のTyr残基をフェニルアラニンに置換したノックインマウス(NR2B Y1472F-KI)において、慢性的な痒みモデルの行動に変化が現れるかを解析した。その結果、野生型のマウスにおいて見られるドライスキン誘発後の自発的な掻破行動がY1472F-KIマウスでは殆ど見られなくなっていることが明らかになった。 この原因として、NR2Bが神経の可塑的変化の形成に関わる、もしくは痒みの神経伝達に必要であるという2つの可能性が考えられた。これらを明らかにするために、様々な起痒物質を頬に皮内投与して野生型マウスとY1472F-KIマウスの掻破行動を比較した。その結果Y1472F-KIマウスはヒスタミン、クロロキン、セロトニン、エンドセリン、PAR-2受容体アゴニストなど全ての起痒物質に対する掻破行動が野生型マウスに比べて優位に低下していた。さらに、痒み刺激による神経活動をc-fosの発現解析により解析したところ、Y1472F-KIマウスは野生型に比べてc-fosの発現細胞数が少なく、この神経活動の低下が掻破行動の低下の原因であると考えられた。一方、カプサイシンの頬への皮内投与に対する痛み行動は野生型と差が見られなかった。これらのことから、NR2Bのリン酸化は痒み特異的な神経伝達に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで当研究室において、NR2Bの1472番目のTyr残基のリン酸化は、慢性疼痛の発現、維持に必要であり、神経の可塑的変化に重要な因子であることが明らかにされてきた。一方、本研究においてNR2Bのリン酸化は、痒みの神経伝達そのものに関わることが明らかになった。最近、Gastrin-releasing peptide(GRP)、Natriuretic polypeptide b(Nppb)といった痒み伝達特異的な神経ペプチドが発見され、痒みの伝達が神経ペプチドによるのか、それとも、グルタミン酸によるのかという議論が行われている。本研究は痒みの伝達にグルタミン酸を介した伝達が重要であることを示唆しており、慢性的な痒みの研究に先立ち、急性的な痒みの神経伝達の解析が必要であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
痒みの伝達に関わるシグナル経路を明らかにするために、NMDA受容体のNR2Bサブユニット、NR2Aサブユニット、AMPA受容体、NR2Bのリン酸を行うSRCファミリーなどの阻害剤を大槽内に投与し、痒み行動がどのように変化するかを解析する。さらに、GRP、Nppbといった神経ペプチドとグルタミン酸経路がどのように痒み伝達において関わりあうのかを明らかにするために、GRP、Nppb、さらに、これらの阻害剤を大槽内に投与し、野生型とY1472F-KIマウスの痒み行動の変化を解析する。これらの研究成果を論文としてまとめる。 ドライスキンによる慢性的な痒みにおいて、野生型とY1472F-KIマウスのc-fosの発現の変化を解析する。さらにGRPレセプター、NPPBレセプターなどとの免疫共染色により慢性的な痒みの制御に関わる神経回路を探索する。 これらの神経回路において発現を誘導するプロモーター下にCa2+インジケーター(YCnano)の遺伝子をつなぎ、子宮内遺伝子導入法を用いて脊髄後角にYCnanoを発現させる。慢性的な痒みにおけるヒスタミン等の起痒刺激、通常では痒みを引き起こさない刺激、もしくは刺激を与えていない状態における痒み伝達ニューロンのCa2+応答の変化を野生型や、Y1472F-KIマウスを比較しながら測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
慢性的な痒みのモデルの作製など、研究の立ち上げに時間を割いた1年間であったため、予定より研究費の使用が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
痒みの研究はマウス1匹に対して1回の起痒物質の投与実験が可能なため、マウスの購入費、維持費に多くの研究費が必要となる。さらに、様々な阻害剤等の試薬の購入に研究費を使用する予定である。
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