痒みの研究はこれまで末梢を中心に行われ、様々な痒み物質とその受容体が明らかにされてきた。一方、脊髄においては近年のGastrin-releasing peptide(GRP)といった痒み伝達特異的な神経ペプチドの発見と共に、痒み特異的な神経伝達回路の存在が注目されている。申請者はNMDA受容体(NMDAR)のGluN2Bサブユニットのリン酸化部位を消失させたノックインマウス(GluN2B Y1472F-KI)において、ヒスタミンやクロロキンなど様々な痒み物質に対する掻破行動が野生型マウスに比べて大きく低下することを発見した。しかし、このマウスにおいてカプサイシンの頬への投与による痛み行動は野生型マウスと同様であった。このことから、GluN2Bのリン酸化は痒み特異的な神経伝達に重要であることが示唆された。さらに申請者は、大槽内へのNMDAの投与は痙攣発作後に激しい掻破行動を引き起こすことを発見した。この系を用いて痒み伝達におけるグルタミン酸-NMDARとGRP-GRPRの相互作用を解析した所、NMDARの活性化はGRP-GRPRを介したシグナル伝達よりも上流で機能することが明らかになった。痒み伝達にNMDA受容体が関わるというのはこれまで知られておらず、本研究において初めて明らかにされた。これらの成果は現在論文に投稿中である。本研究は今後NR2Bをターゲットとした新たなる痒みの治療法や創薬の開発につながると予想される。
|