本研究の目的は,ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)において従来から広く使用されてきたMonte Carlo計算に対して,計算速度の点で優位な新たな線量計算アルゴリズムを開発し,BNCTの治療計画に応用するための基盤を開発するものである. 平成26年度には,拡散方程式を解くことによって中性子束の空間分布を決定論的に導出する計算コードの基盤プログラム(NCT-HighSpeed)を開発し,並行して中性子束から線量へと換算するためのデータセット(カーマ係数)を整備した. 平成27年度には,内部構造が均質なファントムモデルに対して,NCT-HighSpeedで求めた熱中性子束の空間分布と,従来のMonte Carlo法で求めた熱中性子束の空間分布を比較し,ファントム深部10 cm程度までの範囲で,NCT-HighSpeedの計算値が,Monte Carlo法とほぼ同等の値を得られることを確認した.また,NCT-HighSpeedによる計算時間は,Monte Carlo法に比べて格段に短いことを確認した.一方,中性子束とカーマ係数とを乗じて線量を算出した場合,NCT-HighSpeedの値が,Monte Carlo法の値に比べて乖離することがあり,その原因が,中性子束を算出する際のエネルギー群構造に依存しており,エネルギー群構造を細かく設定すれば,その乖離は小さくなる一方で,計算時間は長くなることを突き止めた. 平成28年度には,複雑な形状を有する人体ファントムのCT画像においても,NCT-HighSpeedが動作するための環境を整備し,均質なファントムでの試験と同様,Monte Carlo法との比較を実施した.人体ファントムモデルにおいても熱中性子束の空間分布は良好な結果を示し,その計算を応用した内容について論文化した.
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