研究実績の概要 |
季節性インフルエンザの対策は,薬物的対策と,非薬物的対策の2種類に大別される。インフルエンザ対策の第一選択肢はワクチンの接種であるが,その効果は未解明な部分も少なくない。また非薬物的対策の効果も一貫した結論は出されていない。本研究では,各対策の効果について,疫学的手法を用いて評価することを目的とした。 本研究では,長野県松本市の全公立小学校28校および附属松本小学校1校に在籍する,全小学生児童13,217名を調査の対象とした。第1次調査は前向き調査とした結果,2,548名から回答を得た。これは各学校が教育委員会に対して報告した全数2,651名の96%であった。第2次調査は,全児童に対する横断調査とし,今シーズンの発症の有無,実施したインフルエンザ対策内容,また社会個人背景とした。全児童数13,217名に対し,11,390名(86%)から回答を得た。 2014年のインフルエンザの流行は11月末に始まり12月末に初めのピークを認め,1月末から2月初旬にかけて再度ピークを認め,それ以降は漸減した。学校単位のインフルエンザ発症状況について評価すると,その割合は0%から50%と幅を認めた。次に学校におけるインフルエンザ流行を,学校内初発例で地理的な広がりについて評価したが,学校間の距離と有意な関連は認めなかった。学校別にみた個人の感染対策の実施割合を算出した結果,学内におけるワクチン接種者の割合が高いほど,学校内のインフルエンザの流行は小さかった。全児童のインフルエンザ対策の項目と発症の有無の関連を評価した結果,ワクチン接種はオッズ比0.866,マスクの装着はオッズ比0.859であり,それぞれインフルエンザ発症の減少に寄与していた。 本研究では,研究計画にある学校閉鎖が調査年に実施されなかったためその効果を検証できなかったが,ワクチンとマスクの有効性を示すことができた。以上より,本研究は薬物的対策,また非薬物的対策の効果を示すことができた。
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