研究課題/領域番号 |
26860418
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松本 昂 大分大学, 医学部, 特任助教 (50609667)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小児急性脳炎 / ウイルス性脳炎 / 大分県 / 原因不明脳炎 / 遺伝子診断 / 分子疫学 |
研究実績の概要 |
急性脳炎は発熱、頭痛、痙攣、意識障害、嘔吐または下痢を伴う重篤な疾患である。全世界で毎年10 万人に7.4 人が罹患し、日本国内における小児急性脳炎・脳症患者は年間約1000 例と推計されている。急性脳炎の主な原因はウイルス感染症が原因だと考えられているが、実際には、患者の70%では原因が同定できていない。また、各症状に対する支持療法が治療の基本であり、さらに、重症患者では何らかの後遺症が残ることが多い。そこで本研究では、大分県内で集められた小児急性脳炎患者脳脊髄液検体を用いて、原因病原体の検出を試みた。 これまでに、合計500検体の脳脊髄液からRNA及びDNA抽出を行い、同一属内のウイルスが複数検出可能な既知のユニバーサルPCRによって各種ウイルスの検出を試みた。増幅された遺伝子産物はダイレクトシークエンス法によって塩基配列を決定し、MAGA softwareにてNeighbor-Joining methodを用いて系統樹解析を行った。さらに、BLAST検索にて既知の株との相同性を比較した。 これまでに、大分県内で流行したと予想されるEchovirus、Human adenovirus、Human herpesvirusおよび、Human bocavirusが検出された。特に、Echovirusは最も多く検出され、このうち13株はEchovirus type 9であり、これらの相同性は90-97%であった。系統樹解析の結果、このEchovirus type9はこれまでに愛媛県もしくは兵庫県の患者から検出された株と非常に近似し、大分県内においても流行する小児原因不明脳炎の一因である可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初想定していたよりも検体数が多く、検体の抽出作業が遅れているが、これまでに既に500検体の脳脊髄液から核酸抽出が完了している。今後は、これらの小児急性脳炎の原因病原体について解析を進める予定である。我々のこれまでの研究結果から、Enteroviridaeに対するユニバーサルプライマーが最も検出率が高く、さらに、このユニバーサルプライマーではEnterovirus、Coxsackievirus及びEchovirus等の検出および分子疫学解析が可能である。一方で、既知ユニバーサルプライマーは、株間でよく保存された遺伝子領域を標的としており、いくつかの株では標的遺伝子領域の保存性が非常に高く、分子疫学解析には不向きであるものがある。その為、より詳細な解析の為には、その他の遺伝子領域を標的とした新たなプライマーの設計が必要である。患者臨床情報については、紙媒体によって保管されており、患者情報の抽出とデータ化がやや困難な場合もある。既存のユニバーサルプライマーによるRT-PCR法では、約80%の検体が陰性であり、これら検出率を改善するためにも、これまで検討していないその他病原体についての検出も必要であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに遺伝子抽出を行った検体についてRT-PCR法による原因病原体の検出を行う。遺伝子増幅産物については、サンガー法によるシーケンス解析を行い、分子疫学解析を行う。もっとも多く検出されているEchovirusは新生児および小児において急性熱性疾患の主な原因と考えられており、多くの場合、無菌性髄膜炎が主症状として認められており、全身性疾患を引き起こすことが知られている。我々が検出した株は、これまでに愛媛県または兵庫県から検出された株との相同性が最も高く(90-97%)、大分県内における小児原因不明脳炎の流行の一因である可能性が考えられた。そこで、今後は、Enteroviridaeに対するユニバーサルプライマーを中心に、解析を進める。また、このユニバーサルプライマーではEchovirusの他に、Enterovirus及びCoxsackievirus等の検出および分子疫学解析が可能である。我々は、アジア諸国におけるウイルス性脳炎についても疫学調査を行っており、RT-PCR法では原因究明が困難であった原因不明脳炎検体において、既に次世代シーケンサーによるde novo解析を行っており、これら解析結果は、本研究課題においても新たな原因ウイルスの検索にも有用である。 また、当初予定していた核酸抽出作業と臨床所見のデータ化を遂行する。検体数が多いため、核酸抽出等で作業補助が必要な場合は人件費として予算を計上し、研究計画の完遂に努める。
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