急性脳炎の主な原因は、ウイルス感染症とているが、多くの症例では原因の同定に至っていない。そこで本研究では、大分県内で収集保管された小児脳炎患者脳脊髄液(CSF)を用いて原因と考えられる病原ウイルスの検出を試みた。CSFからRNA及びDNA抽出を行い、同一属内のウイルスが複数検出可能なユニバーサルPCRを実施し、各種ウイルスの検出を試みた。増幅された遺伝子産物はダイレクトシークエンス法によって塩基配列を決定し、系統樹解析を行った。本研究では、Enteroviride、Paramyxoviridae、Parechovirus Flaviviridae、Herpesviridae、adenovirus、bocavirus、及びInfluenza A virusに対して、上記スクリーニングを行った。その結果、310症例中43例(13.9%)からウイルスが検出され、特に、Echovirus type 9が最も多かった(30.2%)。その他にも、Human adenovirus、Human herpesvirusおよび、Human parechovirus等が検出された。系統樹解析の結果、これらの株はこれまでに国内で流行した株とも近似しており、大分県内だけでなく日本国内においても流行する小児原因不明脳炎の一因である可能性が考えられた。しかし、多くの症例では、PCR法によって原因となる微生物が検出されず、これら原因を明らかにする為、HiSeq2500にてRNA Seqを実施し、いくつかのウイルスゲノムが検出可能であった。このことから、次世代シーケンスを用いた高感度病原体検出系の確立に大きな可能性が伺えた。これら研究成果が、今後、日本における小児急性脳炎の流行動態の解明の一助となり、患者と医療機関の双方の負担軽減および新たな診断・治療法の確立に向けた礎になることを期待する。
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