本研究の目的は、我が国の感染症サーベイランス(感染症発生動向調査)によって蓄積されたデータを可視化・分析し、感染症対策に有用な情報として発信するためのITシステムを開発することである。本研究課題では、病原体サーベイランスで集められた過去30年以上に渡る報告データを可視化するシステム(Webベース)を構築した。本システムにより、いつ、どのような病原体が、どこから検出(報告)されたか、一望することが可能になった。本システムは過去30年以上にわたって蓄積された病原体サーベイランスの全ての報告データを内包しており、それぞれの年、それぞれの病原体において、検出された患者の年齢分布、性別割合、症状別発症割合、検査法の種類、その病原体が引き起こした疾患の診断名別割合等を算出しグラフ化する簡易分析機能を備えている。また、データ、グラフに加え、その年に感染症発生動向調査月報(IASR)に掲載された、当該病原体に関連する記事のリストを表示する。文章で記述された当時の状況、当時の疫学的解釈と照らし合わせながら、報告データの分析結果を確認することができる。病原体サーベイランスの歴史において、過去に振り返って、データの確認、また分析や新たな解釈、有用な知見を得ることに活用できるシステムとなっている。ただし、病原体サーベイランスデータの疫学的解釈については、データの質やデータ収集の背景を十分に考慮する必要があることから、今後詳細な検討が必要である。合わせて、公衆衛生対策の現場において真に有用な情報を発信するシステムにするための検討を行っていく。
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