研究課題/領域番号 |
26860434
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高梨 さやか 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20645709)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インドネシア / 小児急性胃腸炎 / ロタウイルス / ノロウイルス / 入院例 |
研究実績の概要 |
インドネシアは東南アジア南部の熱帯国であり、下痢性疾患は5 歳未満乳幼児死亡の原因として第3 位と重要な位置を占める。しかし、インドネシアにおいては新興胃腸炎ウイルスに関する報告は皆無であり、ノロウイルスやロタウイルスについても首都ジャカルタ周辺で限られた検討がなされたのみであった。本研究において、初めてスラウェシ島北部に位置するマナドにおける胃腸炎ウイルスの分子疫学的情報を提供する基盤を確立した。具体的には、マナド市Sam Ratulangi大学附属病院小児科に入院した0~5歳までの急性胃腸炎患児のうち保護者の同意が得られた児(今年度は441名)より便検体の回収を行った。11種類の下痢原性ウイルス(ノロウイルスGenogroup [G]I、GII、A群ロタウイルス、B群ロタウイルス、C群ロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス、エンテロウイルス、サポウイルス、アイチウイルス、パレコウイルス)をターゲットとしてRT-PCR法を施行した。その結果、262(59.4%)検体が何等かのウイルス陽性となり、そのうち、A群ロタウイルスが156 (59.4%)検体、次いで ノロウイルス GII が43(16.6%)検体で陽性と多数を占めた。その他、アストロウイルスが10検体(3.9%), サポウイルスとパレコウイルスが7検体(2.5%),エンテロウイルスが6検体(2.3%), アデノウイルスが5検体(2%), ノロウイルスGIが3検体(1.1%),アイチウイルスが1検体(0.4%)で陽性となった。A群ロタウイルスは年間を通じて認められたが、4月の雨季に1つ、9月の乾季にもう1つの流行のピークを認めた。入院を要する重症急性胃腸炎の児の半数以上からA群ロタウイルスが検出されたことは、この地域におけるロタウイルスワクチン導入の意義を強く示すものである。また、9種類もの下痢原性ウイルスが検出されたことより、当該地域に侵因する胃腸炎病原因子の多様性を裏付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定どおり倫理申請が両国サイドで承認され、研究を開始することができた。2014年8月には研究代表者及び研究協力者がSam Ratulangi大学を訪問し、現地の研究協力者及び病棟スタッフと進捗会議を開催の上、充実したディスカッションを行った。Sam Ratulangi大学出身の東京大学大学院修士学生が、現地スタッフに対して研究の事前説明会を開催し、現地語に訳した研究説明書を準備したこと等も功を奏し、対象患児保護者及び対象児からはスムーズに研究協力が得られていた。RT-PCR法の施行は、当初の予定どおり胃腸炎ウイルスのスクリーニングまで行うことできた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は現地のスタッフと密に連携を取りながら、さらに検体採取を進める。各ウイルス陽性例の臨床症状を、特に重複感染に焦点をあてて解析を行う。検出された胃腸炎ウイルスの遺伝子解析を進め、インドネシア・スラウェシ島に流行しているウイルスが、以前より報告のあるタイプ(遺伝子型)なのか、リコンビネーションなど新規の変化をきたしたものなのか、その地方にその年のみ流行しているものなのか、全世界的に広がりを見せているものなのか等、reference株との比較を通して分子疫学的手法に基づいてウイルスの地域的・経年的広がりを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定より、遺伝子解析に要する費用が少なかったため。 次年度開始早々、A群ロタウイルス、ノロウイルスの遺伝子解析を開始する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降のRT-PCR実験用消耗品、および遺伝子解析に使用する。
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