1. 就労者が双極性障害(Bipolar Disorder: BD)を発症すると「躁状態やうつ状態に伴う人間関係悪化、業務遂行能力や労働生産性の低下、欠勤や休職」により家族、上司や同僚からの信頼を損なう、患者本人の自尊心が低下する、支援に回る周囲が疲弊し、さらには患者に対して陰性感情を抱くなど、様々な社会的後遺症を残しかねない。また大うつ病性障害(Major Depressive Disorder: MDD)とBDでは治療方針が異なり、早期に適切な薬物療法を開始し維持療法へ繋げるためにも就労者のMDDとBDの鑑別は非常に重要である。本研究から、就労者のMDDとBDの鑑別において、職場で最初に自覚する主観的な精神運動性焦燥や精神運動抑制が指標となる可能性が考えられた。MDDと診断された就労者で、職場で変化が現れ始めた早期に、精神運動性の焦燥に伴う対人関係トラブルや、仕事がこなせない、ミスが増えるなど精神運動抑制に関連する事例性を認めた場合は、BDも念頭において慎重に経過観察する必要があるかも知れない。 2. 一部の職業性ストレスに対して発揚気質傾向は保護的に働き、焦燥気質や不安気質傾向は脆弱性を持つことがわかった。また就労者の不安気質傾向、職業性ストレスとしての役割葛藤が不眠と関連することがわかった。自身の気質傾向、その職業性ストレスに対する影響を知ることは、就労者自身の自己洞察、気づきに繋がると考えられ、自身のストレス対策の一助となると考えられる。また上司や同僚が、就労者の気質やその職業性ストレスに対する影響を知ることは、就労者間の社会的支援を促進する可能性があり、特に焦燥、不安気質傾向が強い就労者への配慮が望ましい。また産業保健スタッフの気質傾向に基づいた介入が職業性ストレスへのよりよい適応に繋がる可能性が考えられる。
|