研究実績の概要 |
鉛の毒性は多岐にわたるが、特に神経系への影響が広く知られる。近年、小児の血中鉛濃度とIQとの間に負の相関があることから従来では問題がないとされてきた血中鉛濃度10 μg/dL以下であっても中枢神経系への影響があることが明らかとなった。鉛による神経細胞への影響は、神経伝達物質やカルシウムイオンチャネルの阻害による機序が考えられるが、詳細は明らかとなっていない。中枢神経系の障害は神経細胞だけでなくグリア細胞、特にアストロサイトにおける関与が疑われる。アストロサイトは従来から知られている支持細胞の役割だけではなく神経伝達にも関与していることが明らかとなった。しかし、鉛がアストロサイトの働きにどのような影響を与えるかは未だ明らかになっていない。本研究では、鉛曝露の中枢神経系への影響をアストロサイトのカルシウムイオン応答への影響、神経伝達物質であるD-serine、その幾何異性体L-serineの濃度の変化を検討した。ラット由来の海馬アストロサイトを用い、酢酸鉛を濃度 0, 0.5, 1, 2.5, 10, 50 および 100 μMとなるように培地に添加して、24時間曝露させた。その結果、鉛を曝露させたアストロサイトに顕著な形態変化は観察されなかった。鉛濃度2.5 μM以上の低濃度曝露で濃度依存的にカルシウムイオン応答が低下する傾向が確認され、応答の速度がコントロールと比べて遅くなる傾向が見られた。また、細胞中の細胞のD,L-Serineが 40 μMの濃度で高くなる傾向が見られた。本結果より、鉛がアストロサイトのカルシウムイオン応答に影響することが示唆された。現在、雄雌のラットを用いたin vivo研究の結果を解析中であり、今後報告予定である。
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