研究課題/領域番号 |
26860449
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
樋上 光雄 産業医科大学, 産業保健学部, 助教 (40588521)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 作業環境測定 / 固体捕集法 / 脱着 / 活性炭 / 界面活性剤 |
研究実績の概要 |
本研究は、作業環境測定において固体捕集方法で使用される脱着溶液について、有機溶媒よりも有害性の低い界面活性剤を使用した、活性炭からの有機溶剤の脱着法を開発することを目的とする。具体的な項目としては、1.脱着工程と界面活性剤濃度の検討、2.脱着溶液に使用する界面活性剤の検討、3.固体捕集方法が適用される作業環境測定対象物質について、精度よく分析することができる物質の特定、および4.混合有機溶剤を吸着している活性炭に対する脱着特性の4つを予定し、平成26年度は、脱着工程および脱着溶媒に使用する界面活性剤濃度についての検討を行った。 脱着工程については、まず有機溶剤の活性炭への吸着法として、相平衡法と直接添加法について検討した。その結果、相平衡法では添加溶液を作製する際に、疎水性の高いトルエンは界面活性剤溶液に均一に分散しなかった。そのため、水質試験用としてすでにメタノールで希釈されている試薬の利用が可能な直接添加での試料調整が適していると考えた。また脱着時の温度については、室温よりも加温(60℃)した状態の方が高い脱着率が得られることが分かった。 脱着溶液に使用する界面活性剤の濃度については、当初ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)単一による検討を行う予定であったが、脱着率が低かったため、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)を追加し、2種の界面活性剤を使用しての脱着を行った。その結果、SDS単一で脱着を行うよりも高い脱着率が得られることが分かった。そのため、濃度の検討は前述した2種の界面活性剤を使用して行った。その結果、界面活性剤濃度が高くなるほど脱着率も上昇したが、10%以降はほぼ同様の脱着率を示すことが分かった。 検討結果から得られた脱着工程と界面活性剤濃度10%の脱着溶液を用い、8物質について脱着率を調べた結果、親水性が高い物質ほど脱着率が高い傾向があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の平成26年度の予定は、脱着工程および脱着溶媒に使用する界面活性剤濃度を決定することであった。 脱着工程については、脱着率を求めるための方法を含めて検討した。当初、活性炭への有機溶剤吸着工程を相平衡法で行い、脱着を室温で行っていたが、分析結果が安定しないことから、それらを含めて検討を行い、脱着工程を決定することができた。超音波処理など、まだ検討する項目は残っているが、おおむね順調に進んでいると判断する。 界面活性剤濃度の検討では、当初SDSを使用していたがトルエンに対する脱着率が約1%と低い値となった。そのため、新たにLASとSDSを組み合わせた溶液に計画を変更した。変更後についても、トルエンの脱着率は大きく上昇することはなかったため、検討に使用する有機溶剤をトルエンよりも親水性の高いメチルエチルケトン(MEK)に変更した。その結果、脱着溶液に使用する最適な界面活性剤濃度は10%であることが分かった。この条件で他の有機溶剤についても検討し、有機溶剤と脱着率の関係をある程度把握することができた。したがって、これについてもおおむね順調に進んでいると考える。これらの成果については、本年度5月に大阪で開催される日本産業衛生学会で発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、当初の計画通りSDSとLAS以外の界面活性剤による有機溶剤の脱着率を調べる。その検討結果から最適な界面活性剤を決定し、この界面活性剤を使用した脱着溶液を用いて、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則の対象有機溶剤について脱着率を調べる。 具体的には、平成26年度に検討した試験方法を用いて脱着溶液の組成を変え、それぞれの界面活性剤を使用した場合の同一有機溶剤に対する脱着率を求める。その後、高い脱着率が得られた界面活性剤を複数組み合わせた場合の脱着率を求める。また、使用する脱着溶液中の界面活性剤濃度についても再検討を行う。脱着率を調べるために使用する有機溶剤は、これまでの検討で比較的高い脱着率が得られることが示された親水性の高いIPAやアセトンを使用する。 前述の検討から脱着溶液に使用する界面活性剤を決定したのち、作業環境測定対象の有機溶剤について脱着率を調べる。その時の対象有機溶剤の活性炭に添加する量は、各有機溶剤の管理濃度の10分の1濃度の試料空気を、約1.5 L採気した際に活性炭に捕集される量とする。有機溶剤の添加量が少なくなる場合は、対象有機溶剤の水への溶解度を参考に、可能な限り蒸留水で希釈を行う。蒸留水に溶解しない場合はメタノール等を使用する。脱着率を調べる方法は、前述した平成26年度に決定した方法を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に購入したインキュベーターや分析カラムが、入札により予定していたよりも低価格で購入できたために繰越金の発生が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
界面活性剤や活性炭などの消耗品に使用する。
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