研究課題/領域番号 |
26860453
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研究機関 | 大阪府立公衆衛生研究所 |
研究代表者 |
上林 大起 大阪府立公衆衛生研究所, その他部局等, 研究員 (50622560)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Rubella / Rubella virus / 先天性風疹症候群(CRS) / 中和抗体 / Rubella vaccine / vaccine efficacy / 転写因子 / 中和抗体価測定法 |
研究実績の概要 |
風疹ウイルス(Rubella virus:RV)は妊婦に感染すると胎児に先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)を引き起こす。RVの血清型は単一とされているが、流行株の抗原性の追跡は公衆衛生上重要な課題である。しかし標準化された中和抗体価測定系は確立されておらず、中和を指標とした抗原性の厳密な比較は困難であった。そこで本年度は抗体価測定系の開発を中心に下記の成果をあげた。 【ハイスループット中和抗体価測定系の確立】ウイルス感染初期段階において生体は防御反応としてTLR3, RIG-I, MDA-5などのパターン認識受容体(PRRs)を介して自然免疫系を活性化する。そこでRVがPRRsを介して自然免疫系を活性化するか否か検証する為、PRRsの下流に存在する転写因子IRF-3によって転写が活性化するISRE(Interferon-stimulated response element)をプロモーターに持つLuciferase遺伝子をRK13の染色体上に導入した細胞を樹立した(RK13ISRE-Luc)。RK13ISRE-LucへのRVの感染は感染量依存的にルシフェラーゼの発現を誘導した。ISRE Reporter Systemに立脚したRV検出系を用いることでRVの複製・感染をリアルタイムに評価できることを証明した。RK13ISRE-Lucを用いて当所が保有する健常人血清パネルの持つワクチン株に対する中和抗体価を測定した(n=161)。中和抗体価と抗風疹IgG抗体価の間に有意な正の相関が確認された(R2=0.469,p<0.001)。以上の結果から、RVの迅速・簡便な中和抗体価測定系の開発に成功した。 【RV遺伝子検出系(RealtimePCR法)の開発】臨床検体(n=220)を用いて国立感染症研究所が開発した新規RealtimePCR法と従来法のNested-PCR法の検出感度・特異度を比較した。その結果、新法は感度78.2%、特異度87.1%であったが一人の患者につき複数種類の検体を使用すれば実験室診断に使用可能であることが明らかになり、国立感染症研究所発行の病原体検出マニュアルに収載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【ハイスループット中和抗体価測定系の確立】ISRE Reporter Systemに立脚した風疹中和抗体価測定系の開発に成功した。先行してRK13ISRE-Lucの市中流行株(遺伝子型1E, 遺伝子型2B)に対する反応性を検討したところ良好にシグナルが誘導された。市中流行株とワクチン株の抗原性の定量的な解析に着手している。また、この試験系はIFN応答を利用していることから他のウイルスに対しても普遍的に応用できると期待される。日本脳炎ウイルスに対する中和抗体価はperoxidase-anti-peroxidase(PAP)法を応用したフォーカス計数法により測定されているが、より迅速かつ簡便に中和抗体を測定する為RK13ISRE-Lucを用いて条件検討を実施している。 【RV遺伝子検出系(RealtimePCR法)の開発】当所が保有する臨床検体を使用し感度と特異度の評価を実施した。その結果、実験室診断に有用であることが明らかになった。今後、日本における風疹の実験室診断への貢献が期待される。また、メタゲノム解析技術を応用し臨床検体からの網羅的な病原体検出系の開発を試みている。 【CRS患児の追跡調査】CRS患児からは長期間RVが排泄される。療育支援の為、大阪府内で発生したCRS症例の追跡調査を実施した。全ての症例について陰性化確認まで追跡調査が実施できた。それら経験を生かして独自にCRSに関するQ&Aを作成し当所のホームページに掲載した。医療関係者や妊婦の疑問に応えられる内容になっており社会的な貢献が期待される。 【医薬素材としても有用な抗風疹完全ヒトモノクローナル抗体の取得】ワクチン接種により誘導される中和抗体のレパートリーを解析する為、Epstein-Barr virus(EBV)を用いたリンパ球不死化法により抗風疹完全ヒトモノクローナル抗体の取得を試みた。健常人ボランティア3名に対してMRワクチンを接種し、3000以上のB細胞クローンから抗体産生細胞の一次スクリーニングを実施し複数の候補が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1)ワクチン株と市中流行株の抗原性の定量的解析:自然感染またはワクチンによって誘導された中和抗体のワクチン株(遺伝子型1a)並びに市中流行株(遺伝子型1E, 遺伝子型2B)に対する有効性を評価する。 2)ワクチン接種集団における集団感染事例の要因解明:島根県保健環境科学研究所と連携し2013年に島根県で発生したワクチン接種集団における風疹集団感染事例の解析を実施する。なぜワクチン接種集団においてRVの集団感染が発生したのか明確にする。 3)RV全塩基配列の解読とエピトープ解析:大阪大学微生物病研究所と共同研究を実施し、RV市中分離株(遺伝子型1E, 遺伝子型2B)の全ゲノム配列を決定する。これまで同定されているエピトープに変異が認められるか否か検証する。 4)メタゲノム解析技術を応用したヒト由来試料からの網羅的病原体検出法の開発:平成26年度は風疹特異的な遺伝子並びに感染性粒子の検出系を開発した。しかし、麻疹並びに風疹に類似した発熱・発疹などの症状を呈した患者のなかには麻疹・風疹が否定され、病原体の同定に至っていないものも少なからず存在する。そこでメタゲノム解析技術に立脚したアプローチにより臨床検体からの網羅的な病原体検出系の確立を目指す。 5)RV複製制御因子/感受性決定因子の同定並びに機能解析:風疹に対する特異的な治療法は現在のところ確立されていない。これまでに確立したRV胎盤感染モデル系を利用しRVの複製制御因子の同定を目指す。治療法開発の基盤の構築、RVの生活環理解の深化に繋がる知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
完全ヒトモノクローナル抗体の樹立に関して当初予定していた被験者数を確保できなかった為。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の研究費のうち消耗試薬品費に残額が発生したが、これは次年度に使用する予定である。平成27年度も26年度と同様に研究の遂行のため、消耗試薬品費が必要である。
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