研究課題
昨年度開発した風疹中和抗体価測定系に立脚した解析を中心に下記の成果が得られた。【健常人血清の持つ中和抗体の市中流行株に対する交差反応性の検討】ワクチン株(genotype 1a)並びに市中流行株(1E, 2B)に対する中和抗体の幾何平均抗体価(GMT)並びに中和抗体保有率を導出した(n=101)。Genotype 2Bに対するGMTは6.3倍であり、1a(25.0倍), 1E(12.9倍)に対するGMTの1/4, 1/2であった。感染防御に必要な抗体価として10IU/mLをカットオフ値としているが、10IU/mL以上のIgG抗体を有する者(n=89)の1.1%は1aを, 7.9%は1Eを, 14.6%は2Bを中和出来なかった。Genotype 2Bに対する中和抗体保有率は1aと比較し顕著に低く(Fisher's exact analysis, P=0.0032, two-sided)、感染防御に必要とされる10IU/mL以上の抗体を有していても市中流行株に対して感染防御出来ない者が存在する可能性を示唆している。【抗原性決定部位の変異検出】風疹ウイルス(RV)の抗原性決定部位は、主にRV構造タンパク質E1領域に局在している。Genotype 1a, 1E, 2BのE1遺伝子全長の塩基配列を解読し、E1領域に局在するアミノ酸変異の有無を確認した。その結果、genotype 1aと1Eを比較すると6箇所, 1aと2Bでは8箇所のアミノ酸変異がE1領域中に確認された。これら変異の中で、genotype 1Eでは3箇所, 2Bでは4箇所が抗原性決定部位に位置しており、中和抗体の交差反応性に影響している可能性も示唆された。【RV複製制御因子の同定と複製制御メカニズムの解析】RK13細胞に100を超える遺伝子を導入し複数の複製制御因子を同定した。並行してRV感染細胞において発現が変動する宿主遺伝子群をmicro array法により網羅的に同定した。その結果、RV感染により発現が誘導され、複製を負に制御する複数の遺伝子群を同定した。同定された複製制御因子をヒト由来の複数の細胞に導入し複製を負に制御すること、また細胞種により効果に差があることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
【健常人血清の持つ中和抗体の市中流行株に対する交差反応性の検討】平成26年度はワクチン株(genotype 1a)を用いた風疹中和試験系の構築と中和抗体, HI抗体, IgG抗体保有率の解析を実施した。当該試験系は、他のウイルスにも普遍的に応用できると考えられる為、日本脳炎ウイルスの中和抗体測定系としても応用できるか否か検討した。平成27年度は、市中流行株(genotype 1E, 2B)に対する中和抗体価を測定し、IgG抗体価、HI抗体価と相互に比較した(n=101)。【RV構造タンパク質E1全塩基配列の解読と抗原性解析】市中流行株に対する中和抗体の交差反応性の低下が示唆された。その要因を抗原性変化に焦点を当てて解析した。抗原性決定部位が局在するRV構造タンパク質E1領域の全塩基配列を解読し、抗原性に寄与する変異の有無について解析を行った。交差反応性の低下がE1領域以外の変異に起因する可能性もある為、並行して次世代シーケンサを使用し全塩基配列の解読を試みている。【メタゲノム解析技術を応用したヒト由来試料からの網羅的病原体検出法の開発】平成26年度はRVのtaq man法を用いた特異的RV検出系を確立した。平成27年度は発疹性疾患症例で病原体未同定の者の検体から網羅的に病原体を探索する為、次世代シーケンサを用いた網羅的病原体検出系の確立を目指した。その前段階として、RVが尿検体から検出出来るか否か検討した。【医薬素材としても有用な抗風疹完全ヒトモノクローナル抗体産生細胞の樹立】平成26-27年度はボランティア3名に対してMRワクチンを接種し、3000以上のB細胞クローンから抗体産生細胞の一次スクリーニング、二次スクリーニングを実施した。しかし、クローンの樹立には至っていない。【RV複製制御因子/感受性決定因子の同定並びに機能解析】スクリーニングの結果、複数のRV複製制御因子を同定した。同定された複製制御因子をヒト由来の複数の細胞に導入し複製を負に制御することを明らかした。
1)RVのエピトープ解析:RVの抗原性の変化について焦点を当てて解析する。シュードタイプウイルスを作出し、平成27年度に同定されたアミノ酸変異をsite-directed mutagenesis法を用いて疑似的に導入し中和試験に供する。中和抗体との反応性を順次検討し、同定されたアミノ酸の抗原性変化に対する影響について明らかにする。2)メタゲノム解析技術を応用したヒト由来試料からの網羅的病原体検出法の開発麻疹並びに風疹に類似した発熱・発疹などの症状を呈した患者の中には麻疹・風疹が否定され病原体同定に至っていないものも少なからず存在する。次世代シーケンサを用いた臨床検体からの網羅的病原体検出法を確立する為、RV核酸検査陽性検体を使用しRVが検出出来るか検討する。これまでに明らかになっている中和抗体の交差反応性低下の要因解明に繋がる知見が得られる可能性もある為、並行してRV全塩基配列の同定を試みる。3)RV複製制御因子/感受性決定因子の同定並びに機能解析:風疹ワクチンは妊婦に対して接種不適当とされている。風疹に対する特異的治療法は確立されておらず、妊婦が感染した場合治療する術は無い。そこで、治療法開発の基盤構築、RVの生活環理解の深化に繋がる知見を得ることを目指す。平成28年度は、平成27年度に同定されたRV複製制御因子の複製制御機構を明らかにする。現在までに、複製制御因子を導入した効果が細胞種により効果が異なること、またその遺伝子の発現が臓器により異なることを明らかにした。引き続き、当該複製制御因子の作用機序の解明並びに宿主における意義を明らかにしていく。4)医薬素材としても有用な抗風疹完全ヒトモノクローナル抗体産生細胞の樹立:引き続きスクリーニングを実施し、クローンの樹立を目指す。
完全ヒトモノクローナル抗体産生細胞の樹立並びにRV複製制御因子・感受性決定因子同定に向けたスクリーニングに注力していた為。次年度以降の機能解析に注力出来るよう、スクリーニング方法を工夫し低コスト化を実現した為。
平成27年度の研究費のうち消耗試薬品費・旅費に残額が生じたが、平成28年度もエピトープ解析、同定されたRV複製制御因子の機能解析、完全ヒトモノクローナル抗体産生細胞の樹立に向けたスクリーニング実施の為、消耗品費並びに成果発表の為の経費が必要である。
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