医療現場において「インフォームド・コンセント」という概念は近年世界的に普及していながら、病状説明における「医療者側と患者側の溝」という問題は解決したとは言い難い。脳卒中医療において医療者は時間的制約の中で脳神経解剖、機能解剖からその病態と外科治療、術後経過、機能予後にいたるまで専門性の高い多量の情報を簡潔に説明せねばならず、患者家族がこれらを正確に迅速に理解することは困難である。我々は以前よりこの状況を「病状説明用漫画」を用いて少しでも解決できないか研究してきた。平成22年度から始まった「芸術的アプローチ(漫画)を用いた医療イノベーション戦略研究」で脳卒中医療における「病状説明用漫画」の有用性が示唆され、普及への患者側の強い期待が明らかとなった。今回はその応用研究として新たに脳腫瘍の病状説明用漫画を開発,作成してその有用性について検討した。題材とした「聴神経腫瘍」は、その病変が頭蓋底部の重要構造物が三次元的に密集し領域に発生し、病変の主座で呈する症状は多様であり、手術は合併症回避のために複雑で高度な手技が要求される。実際の臨床現場では患者さんと患者家族にとって言語説明だけでは充分な理解が得られない状況に多く遭遇する。平成26年度から京都精華大学漫画製作担当者と漫画製作に関するミーティングを重ね、「聴神経腫瘍」を題材にした病状説明用漫画を製作した。これには「聴神経腫瘍」の病態や治療方針、実際の治療などが、豊富なデフォルメされたイラストで説明され、漫画としてストーリー性を持って説明されている。これを平成27年度以降の臨床現場で実際に使用し、本漫画の有用性に関するアンケート調査を行なってきた。平成29年3月までに24人の患者さん、患者さんご家族からアンケートの回答を得た。現在、アンケート結果の統計解析を行なっており、論文作成を進めている。
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