法医学は、これまで予防医学に関する多くの提言を行ってきたが、メタボリック症候群も我が国の予防医学における克服すべき課題の一つで、法医学にとって重要な研究対象である。NASHは、肝疾患であると同時にメタボリック症候群の一つでもある。NASHは動脈硬化の独立した危険因子で心筋梗塞や脳血管障害発症に強く関与しているが、現在のところ生命予後を改善させる薬剤は開発されていない。治療薬がない原因としては、NASHの病態が不明であり、研究が進んでいないことが最も寄与していると考えられる。これまでにNASHは糖尿病や脂質代謝異常に着目して病態に迫ることが一般的であったが、NASHと類洞内皮傷害の関連に着目した研究はなかった。類洞内皮細胞は肝細胞に接して存在し、また、機能的にも血液と肝細胞の間で物質交換を行うなど肝細胞と密接な関係にあるため、肝細胞と類洞内皮細胞は深く関与していると考えられる。さらに、近年、肝臓線維化を促進する肝星細胞と類洞内皮細胞が密接に関連することが明らかになった。我々はNASHの病態進展における類洞内皮の構造変化とこれに関与する形態学的ならびに機能的関与因子を解明することで、類洞内皮細胞傷害の抑制がNASHの病態進展を抑制できるかをNASHモデルであるコリン欠乏食モデルおよび高脂肪食モデルマウスを用いて検証した。その結果、NASHの病態において、まず類洞内皮傷害が起こり、その後にKupffer細胞や肝星細胞が異常に活性化し、肝硬変へと進展していくことを明らかにした。これにより類洞内皮傷害の抑制がNASH進展の抑制や回復に有効であり、新規治療法開発へと繋がる可能性を示した。
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