本研究は、様々な生理機能に関与している内因性カンナビノイドシステム(ECS)とドーパミン(DA)シグナリングとの関連性を解明する事を目的としている。 まず、培養ラットグリオーマ細胞(C6)におけるECS関連遺伝子に対するDA曝露の影響について検討したところ、DA処理によりPLCβ4の転写レベルの上昇とMGLLの転写レベルの低下が認められた。 次に、DA処理により生じる変化が、DA受容体を介した作用か否かを確認することとした。C6にはD1様受容体としてD1が、D2様受容体としてD3とD4を認められ、それぞれの受容体に対するアゴニストを用いてC6を処理した結果、D1様受容体アゴニスト処理によって、DA処理と同様の変化を認めた。 DA処理により転写レベルが変化するPLCβ4とMGLLはそれぞれ、内因性カンナビノイドの一つである2-AGの合成と代謝に関与する酵素である。そのためDA曝露によりC6における2-AGの代謝回転に変化が生じている可能性が示唆される。そこで、C6をDAで前処理した後、カルシウムイオノフォアによって培養上清中に誘導される2-AGを定量した。その結果、2-AGはコントロール群に比しドーパミン前処理群において、その前処理時間依存的に有意に高くなった。 内因性カンナビノイドはシナプス逆行性に作用することで、プレシナプスからの神経伝達物質の遊離を抑制することが知られている。また本研究結果より、長期間高濃度のDAで処理することにより、C6における2-AG産生能が上昇することが確認された。以上のことから、シナプスにおいてDAが長期にわたり上昇するような状況下では、グリア細胞の2-AGシグナリングが強化され、シナプス間におけるDAシグナリングの調節に対し、グリア細胞由来のECSが積極的に関与している可能性が示唆される。
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