研究課題
一般的に高齢者では加齢に伴って薬剤の有害事象の危険性が高まることが指摘されている。本研究においては介護施設での入所時および入所後の処方内容と疾患の増悪や転倒などの医学的イベントの関連を調査する事を目的とした。老人保健施設(以下老健)64施設、医療療養病床、介護療養病床の両者を含めた療養病床(以下療養)53施設において平成22年4~6月に入所した65歳以上の症例から各施設5症例無作為に抽出したデータの解析を行った。解析対象は老健53施設からの258例、療養44施設からの212例である。合計470症例に対し、経口薬剤2227剤、非経口投与薬剤197剤が投与されていた。64.0%が4剤以上、27.5%が7剤以上経口薬剤を投与されていた。また、平均して3.8種類の慢性疾患を診断されていた。米国老年医学会による2012年度版ビアーズ基準による慎重投与薬は37.5%、2003年度版ビアーズ基準では11.9%に投与されていた。一方、入所後3ヶ月までで42症例(8.9%)に重篤な医学的イベント(救急への搬送、急性期病院への転院または死亡)が観察され、そのリスクは高齢、男性であること、医療療養病床への入所、非経口投与薬剤数と有意に関連していた。入所後1から3ヶ月目までの重篤な医学的イベントは高齢、男性であること、入所後1ヶ月目の非経口投与薬剤数、入所時から1ヶ月目までの経口および非経口投与薬剤数の増加と有意に関連していた。ビアーズ基準による慎重投与薬は2003年度版、2012年度版のいずれも重篤な医学的イベントと関連していなかった。本研究では介護施設入所時に慎重投与薬含めて多くの薬剤が投与されていること、また入所時の薬剤数だけでなく、入所後の薬剤数の変化も入所後の医学的イベントのリスクと関連していることが示され、介護施設における薬剤管理の重要性が示唆された。
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