研究課題
臨床的に家族性地中海熱(FMF)が疑われた自検例、あるいは他施設からFMFを疑われ遺伝子検査を依頼された患者に対しMEFV遺伝子検査を行い、遺伝子異常が確認された患者の遺伝子型と表現型の関連について検討を行った。患者の男女比は1:1.3、発症年齢は平均23.7歳、年間の発作頻度は平均11.7回、1回の発作の持続期間は平均4.7日であった.38℃以上の発熱が83.6%の患者で認められ、腹膜炎:62.1%、胸膜炎:45.7%、関節炎:41.4%の順であった.反応性AAアミロイドーシスは1.7%と少なかった.コルヒチンは60.3%の患者で投与され、90%以上で発作の軽減または消失を認めた.本邦患者の臨床像は地中海地方と比べ全体的にやや軽症であった.最も多く検出された変異はE148Q(全体の40.2%)で、以下M694I(21.0%)、L110P(18.8%)の順であった.一方で、地中海地方で頻度の高い変異(M694V、V726A、M680I)は検出されず、変異の種類に民族間の差が認められた.また本邦FMF患者の中でも、M694IはFMFとして典型的な症状、E148Qは全般的に軽症、P369S/R408Qでは非典型的な症状が見られやすくコルヒチンが効きづらいとった差異が認められ、遺伝子型によって表現型に一定の傾向が見られた.このように本邦患者の臨床像や遺伝子型と表現型の関連について明らかにすることによって、これまで稀とされていた本疾患の認知度の上昇、医療者への啓発はもとより、適切な診断や治療を行う上で重要な指針となるものと考えられる。以上の内容を国際誌に報告した(Arthritis Res Ther. 2014 Sep 27;16(5):439.)。
2: おおむね順調に進展している
今年度の実績により、これまで認知度の低かった本疾患の診断、治療が可能になる点において、非常に有用であると考えられる。現実的には疾患の認知度の低さから、典型的な症状を数年~数十年繰り返している場合でさえも診断に至らず、発作に苦しむ患者が多数存在している。一般医家に対する啓蒙にも役立ち、診断能力の向上が期待できる。また、変異ごとの臨床像の特徴が明らかになったことにより、患者それぞれにおいてより適切な治療を行う手がかりとなることが期待される。また治療に関してはコルヒチンが高い確率で有効であるとされていたが、その用法、容量についてはコンセンサスが得られていなかった。また下痢、腹痛、嘔吐など消化器系の副作用を認めることもある。このため、より適切な投与方法が確立されれば、より高い効果と副作用の軽減につながると考えていた。今回、日本人の実臨床における投与量は平均0.8mg/日と少量でありながら、90%以上の症例で有効性が確認できた。このことから、治療の指針を作成する上で非常に有意義と考えられた。
引き続き症例を蓄積し、それぞれの変異ごとの臨床像の特徴をより詳細に検討する。またMEFV遺伝子異常を有するものの臨床的にFMFと診断できない患者が一定数存在している。本邦と地中海地方では遺伝子変異の種類や臨床像、アミロイドーシスの合併頻度などが大きく異なることから、特に非定型的な発作が出現する症例をどのように扱うかについて、これまで明らかな指針はないが特に本邦では重要な課題であると考えている。このため、現時点では他疾患の除外を行った上で、コルヒチンを診断的治療として投与し、その治療反応性も含めて判断をする場合があるが、そのような患者群での遺伝子変異の特徴や臨床像について詳細に検討し、診断の妥当性を検証する。上記の結果を本邦における診断・治療指針へ反映させる。また、患者血清中の各種炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α、IL-6など)の測定をELISA法を用いて行い、臨床病型との関連を検討する。現在、少数ではあるがコルヒチンに対して抵抗性を示す患者が存在する。患者における炎症性サイトカインの作用、動態を解明することにより、より病態に即した治療の可能性が広がることが期待される。
当初計画で見込んだよりも安価に研究が進んだため、次年度使用額が生じた。
次年度使用額は平成27年度に消耗品費と合わせて使用する。遺伝子検査の依頼件数はさらに増加が予想される。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Arthritis Research & Therapy
巻: Sep 27;16(5) ページ: -
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http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-3nai/theme11.html