本研究目的は、早期の抗うつ効果発現に寄与する新たな分子経路を同定することである。我々の先行研究において、HDAC阻害剤がCaMKIIのisoformであるCaMKIIbetaを介して、またうつ病モデル動物の海馬CaMKIIbeta発現制御が、うつ様行動あるいは抗うつ効果に関与する可能性を見出した。平成27年度は、CaMKIIbetaがGluR1のリン酸化を制御しているかを検討した。CaMKIIbetaの発現をノックダウン可能なアデノ随伴ウイルスを海馬に投与し、3週間後にGluR1のリン酸化レベルを測定した。その結果、CaMKIIbetaノックダウンマウスにおけるGluR1のリン酸化レベルはコントロールマウスに比して有意に低下していた。また、慢性ストレスを負荷したBALB/cマウスの海馬にGluR1のシナプスへの局在を増大させるペプチドを投与した結果、うつ状態は回復した。この結果から、海馬シナプス上のGluR1が抗うつ効果に重要な役割を担っていることが示唆された。以上の解析から、SAHAによる抗うつ作用は、CaMKIIbetaによるGluR1のリン酸化が重要な役割を担っていることが示された。この結果は、GluR1のシナプス膜上への移行を促進させるような化合物が即効性のある抗うつ化合物となり得る可能性を示唆している。
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