本研究は,代表的な消化器心身症である過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome; 以下IBS)の未患者(以下non-patient IBS)を対象として,心理的ストレス状況下における携帯情報端末を用いたリアルタイムでのストレス認知修正を意図した認知行動療法の技法適用が,どの程度症状低減効果を有するのか,ということについて検討することを目的としている。 平成28年度は,平成26年度の後半と平成27年度に引き続き,「携帯情報端末上のワークシートを用いた心理的介入とその効果の検討」を行なった。介入はストレスモデル関連因子,特にストレス認知の修正を意図した認知的再体制化がメインであり,他に生活習慣改善のための心理教育も行われた。 その裏付けとしては,平成26年度に行われた「成人を対象としたRomeIII診断基準を用いた対象者のスクリーニングと,ベースラインとしての症状,QOL評価や,心理社会的背景をアセスメントする手続き」がある。具体的には,本検討の対象者においては,心理的ストレス状況下におけるストレスモデル関連因子に特異性が認められ,これらの要因をコントロールすることでIBS症状やQOLを改善することが出来る可能性が窺がわれたことがそれにあたる。 平成27年度は本来最終年度の予定であったが,一部の対象者でドロップアウトがあり,予定していたデータ数に満たなかったため,追加での対象者リクルートとデータ採取を行なった。そのため,平成28年度も引き続きデータ採取とフォローアップを行い,結果,本研究で用いられた心理的介入技法の有効性が一定程度示された。具体的には,介入期間全体においてIBS症状が有意に低減し,フォローアップ期間においても症状が改善した状態が維持されていた。QOLに関しては介入中は不安定な経過をたどったが,フォローアップ期間には有意に改善していた。
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