研究課題
哺乳類の消化管には約1000種類の細菌が共生し腸内細菌叢を形成している。腸内細菌叢は栄養素の代謝や腸管防御機構の増強,嫌気性代謝,血管新生,腸管リンパ組織の発達など腸管の恒常性維持に必須の役割を果たしている。近年、腸内細菌叢の異常は多くの消化器の炎症性、腫瘍性疾患に関与していることが明らかにされつつある。一方、本邦において機能性消化管傷害(Functional gastrointestinal disorders; FGIDs)の患者が増加し、その予備群を含めると3000万人の有症状者が存在するとされる。今回私は新規麦芽乳酸菌由来活性物質による腸内細菌叢変化と過敏性腸症候群への臨床応用として研究を行ってきた。新規麦芽乳酸菌死菌をSPFマウスに混餌投与することにより腸内細菌叢が変化することが確認された。しかしながら過敏性腸炎モデルマウスでは明らかな有効性は確認できなかった。症状のスコアリングに有意差は認めなかったが、腸管の炎症サイトカイン発言の検討では、TNF-α、IL-1βを抑制することが確認できた。炎症性サイトカインが制御されるメカニズムに関しては、すでに麦芽乳酸菌由来活性成分であるポリリン酸による腸管上皮と免疫担当細胞に対する作用であることがin vitroの検討から確認できた。またポリリン酸の腸管上皮への取り込みに関するメカニズムに関しても解明することができた。新規麦芽乳酸菌の投与のみでは有効性が確認できなかったことの問題点として、有効成分であるポリリン酸が十分に腸管内に到達できていないことが原因と考えられた。そこで今後は有効成分であるポリリン酸そのものを腸溶剤カプセルとして投与することでIBSモデルマウスへの有効性が期待できるものと考えられる。今後も研究を継続していく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
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