本研究は、胃炎から化生性変化をへ低腫瘍発生までの経過を解析するため、胃炎症発癌マウスモデルおよび細胞系譜学的手法を用いて、化生性変化そのものが前癌病変であるか否か、その過程におけるメカニズムはどのようなものか、などを検討することを目的とした。 胃特異的遺伝子改変を可能とするため、BAC recombineeringの手法を用いて、TFF1-BAC-Creマウスを新たに作出した。Rosa26-EYFPレポーターマウスおよびRosa26-Laczレポーターマウスとの交配により、Creの発現部位を解析すると、本マウスにおけるCreは、胃全体、十二指腸から上部空腸、終末回腸から近位結腸、と消化管粘膜に広範囲に発現していた。膵臓での発現は認められなかった。 次いで胃の化生性変化をきたすモデルとして、TFF1-BAC-CreとLSL-KrasG12Dマウスを交配し、TFF1-KrasG12Dマウスを作成した。3ヶ月齢までの解析では、胃腺窩上皮の過形成、壁細胞の減少、Alcian Blue染色陽性粘液産生の増加などの化生性変化を認めた。これらはK19プロモーター下に腫瘍原性Krasを発現させたトランスジェニックマウスモデルと合致する所見であった。 本研究のもう一つの目的は、宿主の免疫学的素因と胃炎症発癌の関連に関する検討である。樹状細胞特異的IKKβ欠損マウス(CD11c-Cre x IKKβ f/fマウス)を用いた解析を行う予定でマウスの交配を進めている。
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