これまでの研究から、ピロリ菌病原因子CagA発現に依存的なbeta-cateninの細胞核移行の原因として、CagAが引き起こすタイトジャンクション破壊の関与が推察されていた。そこで、正常な細胞極性を形成する培養細胞株であるイヌ腎尿細管上皮由来MDCK細胞株を用いてレンチウイルスの共感染実験系の樹立を目指しているが、現在までのところ感染効率が低く結論には至っていない。一方、胃上皮細胞においてbeta-cateninを細胞膜近傍に留め置くE-cadherinの修飾がCagA発現に伴い変化している現象を見出した。現在、この現象とbeta-catenin細胞核移行の関与について解析中である。
タモキシフェン処理によりピロリ菌がんタンパク質CagAを誘導発現できるトランスジェニックマウス(CagA-Tgマウス)を用い、CagAを2か月誘導発現したマウス胃粘膜上皮を観察した。その結果、CagA発現が免疫組織染色により確認された胃体部周辺の上皮組織に化生性の変化が起きていることが明らかになった。この病変部はAlucian Blue染色陽性で、さらにTff2発現細胞が存在したことから、幽門腺化生(SPEM: spasmolytic polypeptide expressing metaplasia)であると判断した。マウス胃上皮では幽門腺化生から腸上皮化生への進展が報告されており、今後引き続きタモキシフェン処理後のCagA-Tgマウスの胃上皮を段階的に観察することで、ピロリ菌CagAに起因する多段階発がんの様子が解析できると期待している。現在、CagA依存的なCdx1異所性発現の有無、並びにCdx1による胃上皮細胞の限定的脱分化機構の解析を、CagA-Tgマウスの胃上皮組織を用いて進めている。
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