研究課題
昨年度までの研究で、ピロリ菌病原因子CagAを発現した胃上皮細胞株において、E-cadherinのリン酸化状態が著しく変化していることを明らかにした。そこで本年度は、そのリン酸化量の変化を引き起こす分子メカニズムを明らかにするため、種々のCagA変異体を用いて解析を行った。その結果、CagA依存的なE-cadherinのリン酸化量変化は、内因性ホスファターゼおよびキナーゼ両者の活性がCagAにより異常に調節されることで引き起こされていることが明らかになった。さらに、E-cadherinの変異体を用いた解析からは、CagA依存的にリン酸化状態が変化しているE-cadherin内のアミノ酸を複数同定することに成功した。それらのアミノ酸が位置する配列周辺は、E-cadherinの働きに重要な分子が結合するために必須な領域であり、そのリン酸化量の変化がE-cadherinと他分子との結合力、さらにはE-cadherinの働きに影響を及ぼすことが推察された。本研究を通して、胃発がんとの関連が強く示唆される分子であるE-cadherinの機能に重要なアミノ酸のリン酸化状態がピロリ菌病原因子CagAにより異常に調節されることを示した。この結果は、CagAを起点とした未知の胃発がんメカニズムの解明につながる可能性があり、今後さらに解析を進める予定である。また、CagAを誘導発現できるトランスジェニックマウスを用いた研究からは、CagAが胃上皮に前がん病変と考えられる化生性変化をもたらす能力を持つことをin vivoで明らかにした。この成果は今後、胃の多段階発がんの経過と分子機構を解明する上で重要な知見の一つになると考える。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 1-14
10.1038/srep10024