研究課題/領域番号 |
26860504
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小林 隆 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (90709669)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メタボロミクス / GC/MS / LC/MS / 膵がん / スクリーニング / 質量分析 |
研究実績の概要 |
膵がん患者の予後を改善させるために最も重要なことは、早期発見による早期治療であるが、そのために有効な膵がんスクリーニング法は未だ存在しない。これまでに研究代表者は、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC/MS)による血清メタボロミクスを用いた診断手法が、膵がんの早期発見や慢性膵炎との鑑別に有用である可能性を明らかにしてきた。本研究課題では、血清メタボロミクスを用いた膵がん診断手法の診断精度をさらに高めるとともに、その有用性をより厳密に検証する計画であり、平成26 年度においては、GC/MSと液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)を統合した解析系を構築することを到達目標として研究を実施した。まず、血液検体の操作手順、および、分析クオリティのコントロール方法を標準化した。次に、解析系にLC/MSを導入し、脂質・陽イオン性代謝物・陰イオン性代謝物の3系統の測定系を構築した。これらの成果によって、数百規模の大量検体に対して、これまでの約100種より大幅に拡大した約500種の代謝物を解析対象として、より高い信頼性をもった分析結果を得ることが可能となった。また、既に確立したGC/MS による水溶性代謝物の測定系においても、これまでに膵がんに対する代謝物マーカーの候補として見出された5-Anhydro-D-glucitol、Histidine、Inositolなどに対して、より選択性と定量性を高めることを目的として、最適な多重反応モニタリング法(MRM)を構築するための検討を行った。既に試薬レベルでの分析条件の確認は完了しており、現在、ヒト血液検体に添加して定量的な分析を行うための検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26 年度においては、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC/MS)と液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)を統合した解析系を構築することを到達目標とした。この計画に対し、まず、血液検体の採取から保管までの手順を見直し、温度や時間条件の影響を最小化するための操作手順を策定し、統一した。また、大量検体を長い期間にわたって分析する場合には、分析の安定性が問題となる可能性が想定されるため、分析の信頼性を担保するためのクオリティコントロール法を検討し導入した。次に、解析系にLC/MSを導入し、脂質・陽イオン性代謝物・陰イオン性代謝物の3系統の測定系を構築した。その結果、解析対象とする化合物数は、従来のGC/MSによる水溶性代謝物の約100種に、脂質約300種、陽イオン性代謝物約100種、陰イオン性代謝物約100種を加えた計約600種となり、解析対象を大幅に拡大させることに成功した。これらの成果によって、高い信頼性をもって、例えば脂質メディエ―ターのように生体中で重要なはたらきに関係する脂溶性物質を測定することや、代謝経路への連続したマッピングを行うことが可能となり、病態解析も含めたより詳細な検討が可能となった。また、既に確立したGC/MS による水溶性代謝物の測定系においても、これまでに膵がんに対する代謝物マーカーの候補として見出された代謝物に対して、より選択性と定量性を高めることを目的とした多重反応モニタリング法(MRM)を構築した。さらに、平成27年度以降に計画しているヒト検体分析に備えて、複数の施設から血液を順調に集積しており、当初の目標に対して順調な進捗を得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、「膵がん患者検体における血清・血漿メタボロミクスによる包括的代謝プロファイリング」と、「血清・血漿メタボロミクスを用いた膵がんスクリーニング法の確立」を到達目標とする。まず、平成26年度に構築した新たな解析系を用いて、膵がん患者検体における血清・血漿メタボロミクスによる包括的代謝プロファイリングを行う。その際、検体採取から分析後データ処理までの操作は、平成26年度に策定した標準操作手順に従うことによって、信頼性を担保する。さらに、プロファイリングを利用した膵がん検出法の構築を行う。疾患に特異的な単一代謝物が見出された場合には、その代謝物に限定した最適な測定法を質量分析に限らず再検討する。単一代謝物での診断が困難な場合には、多変量解析を用いて複数代謝物を指標にした診断予測法を構築する。早期膵がん、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍などの膵疾患、ならびに他臓器疾患も検証対象とし、これらとの区別が可能かどうかについて、多施設で収集しブラインド化された検体を用いて、感度・特異度・偽陽性率・偽陰性率を算出し、従来の腫瘍マーカーとの比較も加えて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたヒト検体分析に一部遅れが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れ分は平成27年度のヒト多検体分析に合わせて行うこととし、分析における消耗品として使用する計画である。
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