本研究は、肝細胞癌患者予後に密接に関与していると考えられている癌幹細胞特異的な分子を同定することによって、肝細胞癌に対する新規治療法や診断法を開発することを目的としている。
0.1%DDC食をマウスに対して4週投与することで、肝再生の指標とされる肝/体重比がコントロール群と比較して有意に増加することを明らかにし、0.1%DDC食の使用が肝障害誘導モデルとして有用であることが示唆された。このモデルを用いて肝障害を誘導した肝臓内のEpCAM陽性肝幹細胞、CD44陽性肝幹細胞の割合をFlow cytometryによって解析した結果、それぞれ0.1%ほどの非常に稀な細胞集団として存在していることが明かとなった。 さらに、ヒト肝癌組織を用いたEpCAM及びCD44発現に対する免疫組織化学染色による臨床病理学的検討の結果、EpCAM発現は予後との有意な相関を認めないが、CD44陽性患者は、陰性患者と比較して有意に予後不良であること、独立した予後予測因子となりうることを明かにし、CD44発現は肝幹細胞マーカーのみでなく、臨床病理学的にも重要な癌幹細胞マーカーであることが示唆された。これらの検討結果に基づいて、CD44陽性肝癌幹細胞株、CD44陰性肝癌細胞株にける遺伝子、miRNA発現を、マイクロアレイを用いた統合解析によって比較したところ、CD44陽性肝癌幹細胞において発現が増加している遺伝子を604個、miRNAを71個同定した。さらに、これらの遺伝子、miRNAのなかで、miR-137、DKK1は共に肝癌患者予後と有意な相関を示し、独立した予後予測因子であることを明らかにした。これらの結果より、今回同定した遺伝子、miRNAの中に肝癌幹細胞に対する新規治療法、診断法の標的となる分子が含まれている可能性が示唆された。
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