研究課題
我々はこれまで経内頸静脈的にパルミチン酸を持続投与することにより大腸上皮の増殖能が亢進することBrdUの取り込みを測定することにより確認している。さらに江口らが確立した方法でパミチン酸を0.2μl/minで24時間経内頚静脈的に持続投与することで大腸上皮のインスリン抵抗性の出現のみならずJNKも活性化していることを確認し、さらに長時間脂肪酸を投与することで細胞増殖が亢進していることが確認され、本投与方法を用いた大腸発癌モデルの可能性を見出している。昨年度は、発癌実験に対する脂肪酸長期投与も見据えた条件設定のため、 脂肪酸の投与時間、投与濃度での違いを確認した。まず、脂肪酸濃度および速度を様々な条件に設定し、Ki67、BrdU 取り込みによる大腸上皮細胞増殖の評価、JNK活性について何度も検討したが、データのばらつきも大きく期待する結果が得られなかった。また、経静脈投与には1匹につき1ゲージ必要であり、n数が確保できないというデメリットがあり、Hua Shenらが確立した脂肪酸を腹腔内投与することで1種類の血中脂肪酸濃度を上昇させる方法に変更することとした。腹腔内投与モデルは比較的安定したデータが得られ、1日1回、150mMのパルミチン酸0.02ml/gを腹腔内5日間連続投与することで、有意に大腸上皮細胞の増殖が亢進していること、大腸粘膜のcMyc、CyclinD1発現が亢進している結果が得られている。飽和脂肪酸の受容体であるTLR4のノックアウトマウスを用いて上記の脂肪酸投与モデルによる実験を進めており、細胞増殖や分子の発現について解析中である。また次に飽和脂肪酸の発癌における関与を明らかにするためにアゾキシメタンによる発癌モデルを用いて飽和脂肪酸投与がACF形成を促進するかを準備中である。
3: やや遅れている
大腸発がんにおける脂肪酸負荷の重要性について、肥満モデルでない実験マウスを用いて糸口をつかみ、また分子機序にまで迫っている点は非常に意義が大きいが、当初1年をかけて研究予定であった脂肪酸の投与量、速度、脂肪酸の種類の条件設定が十分確立した状態とはいえず、この点に関しては十分研究がすすんでいるとは言えない。ただ、さまざまな文献をもとに代替となる案を模索し、脂肪酸の腹腔内投与の方法を確立しつつあり、実際この方法で脂肪酸投与による大腸上皮細胞の増殖亢進やc-mycやcyclinD1発現の亢進を確認できており、脂肪酸が明らかに大腸発がんへ重要な役割を果たしていることが実証された。
本年度は引き続きTLR4ノックアウトマウスを用いた発がんモデル(ACFモデル)の大腸上皮の細胞増殖亢進の検証を継続し、さらにこの大腸組織やタンパクを用いた分子機序解析にまで研究をすすめる予定である。さらにJNKノックアウトマウスで脂肪酸投与実験も行い、大腸上皮の細胞増殖およびその分子機序について検討する。これにより脂肪酸投与モデルにおけるTLR4/JNK経路の重要性を確認できる。またc-Jun標的遺伝子であるcyclinD1、CD44などの発現亢進のほか、JNKとリンクするWntシグナルの関与について検討する予定である。さらにWnt標的遺伝子であるLgr5発現が脂肪酸投与により亢進するかどうかを検証する。以下の計画により上記目標を検証する。①脂肪酸投与マウス大腸上皮の蛋白解析をJNK、c-Junに関してリン酸化特異的抗体を用いて行う。さらに転写因子としてのAP-1の脂肪酸による転写亢進はEMSA(ゲルシフト)にても解析する。②脂肪酸投与マウス大腸上皮陰窩におけるリン酸化βカテニン552(p-βカテニン)陽性のCBC細胞数解析。以上より得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
日本消化器内視鏡学会雑誌
巻: 55 ページ: 3735-3744
消化器内科
巻: 58 ページ: 612-616
Int J Cancer
巻: 135 ページ: 1586-95
10.1002/ijc.28814