研究課題/領域番号 |
26860518
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
酒井 英嗣 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (30600233)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大腸癌 / DNAメチル化 / 遺伝子変異 / de novo癌 / LST |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大腸発癌経路の一つであるde novo pathwayに関わる発癌分子機序を明らかにすることである。もっともよく知られる発癌経路はadenoma-carcinoma sequenceであり、多くの隆起型腺腫が、KRAS、APC、TP53といった遺伝子の多段階にわたる変異を経て進行大腸癌へと進展することが知られている。また、最近はマイクロサテライト不安定性とBRAF変異を特徴とするserrated pathwayに関しても、発癌に関わる分子機序が明らかになりつつある。 近年の遺伝子解析技術の進歩に伴って、大腸がんの全ゲノム解析が報告されるようになった。我々の結果と照らし合わせることで、de novo癌の進展に関わる分子機序が明らかになるかもしれない。本年度は内視鏡にて切除したde novo癌の前癌病変と考えられる平坦型の側方拡張型腫瘍(LST-NG, laterally spreading tumor, non-granular type)の症例を50例集積し、すでにマイクロダイセクションにより、選択的に腫瘍細胞からDNAを抽出することに成功している。de novo癌の頻度はそれほど高くないため症例の集積が困難だが、ハイボリュームセンターであるNTT東日本関東病院と共同研究することで、短期間に必要症例を集積可能であった。 現状、抽出したDNAを用いたメチル化解析が終了しており、通常型腺腫や鋸歯状腺腫と比べ、メチル化率が極めて低いことが明らかとなった。これに網羅的遺伝子変異解析を追加することで、早期de novo癌もしくは平坦腺腫の詳細な分子生物学的背景が明らかになると思われる。癌の分子生物学的背景の解析は、化学療法への感受性など治療にも深くかかわっており、臨床応用も期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の達成目標であった、50例の症例集積およびDNAの抽出はすでに完了しており、当初の予定通りである。また、メチル化解析に関しても、メチル化マーカーのヴァリデーションを済ませ、すでに50例すべてで計20遺伝子のメチル化率を解析している。遺伝子変異に関しては、当初予定した全ゲノムの解析はDNA量の不足などから困難であり、ターゲットシークエンスで大腸癌ドライバー遺伝子として同定されている多くの遺伝子のコーディング領域を95%以上カバーできるように、キアゲン社のGene Read DNAseq Targeted Panel V2 Human Colorectal Panelを用いて、解析のための設計を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は設計したパネルを用いて、de novo癌の前駆病変と思われるLST-NGの遺伝子変異解析を施行する。現状LST-NGでは他の前がん病変と比し、メチル化率がきわめて低いことがわかってる。免疫染色では、βカテニンの異常活性化とTP53変異がLST-NGの発生および進展に関わっている可能性が示されており、それに関わると思われる、APCやCTNNB1の他、Wntシグナルに関わる遺伝子変異に関しても興味深い。7月までには変異解析を終え、データをまとめたうえで、8月中には論文投稿の運びとする予定である。
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