本研究では胃の細静脈 mural cells(血管平滑筋および周皮細胞)において自発的Ca2+上昇とそれに続く細静脈の自発収縮がおこることや、細静脈が交感神経により持続的に収縮することを示した。最終年度には、直腸細静脈においても自発的Ca2+上昇・自発収縮がおこることを確認した。 様々な直径の細静脈(直径15~130マイクロメートル)において、mural cellsはギャップ結合によって機能的合胞体を形成しており、細胞間で同期した周期的な細胞内Ca2+上昇とそれに続く周期的な細静脈自発収縮が認められた。小胞体IP3受容体からの自発的Ca2+放出がCa2+活性化Cl-チャネルを開口させると、脱分極(細胞外へのCl-流出)がおこり、それに続くL型電位依存性Ca2+チャネルを介したCa2+流入により細静脈が自発収縮すると考えられた。 一方、内皮細胞から放出される一酸化窒素(NO)は、mural cells内でcGMP産生を促してmural cellsの自動能を抑制した。しかし、cGMP 分解酵素phosphodiesterase 5(PDE5)も常にはたらいており、周期的な自発収縮が保たれていた。 胃や直腸の壁は、食物塊や糞塊により伸展されると血液が滞りがちになる。細静脈の自動ポンプ機能により、胃腸外への血液排出が維持され、胃腸粘膜の毛細血管における栄養・酸素の供給や老廃物・二酸化炭素の回収が円滑に行われると推察される。細静脈の周期的な自発収縮は、胃腸壁内の血液の巡りを円滑にし、胃腸粘膜障害を防ぐ機構のひとつとしてはたらいている可能性が考えられた。これに対し、交感神経性の持続的な細静脈収縮は、急激な環境変化へ対応するための機構であると推察される。つまり、運動時や出血時など交感神経優位の状況下で、胃腸から速やかに血液を排出して心臓や脳への血液供給を増加させるものと考えられた。
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