研究課題/領域番号 |
26860534
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
柿本 一城 大阪医科大学, 医学部, 助教 (20589816)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脂肪由来間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
まずマウス骨髄細胞由来の血管内皮前駆細胞(Endothelial Progenitor Cells: EPC)の、マウス腸炎モデルにおける炎症部位への集積性を検討した。 C57BL6/J マウスの大腿骨、骨盤、脊椎より骨髄細胞を採取し、培養法にてEPC細胞を採取した。大腸炎モデルとしてC57BL/6Jマウスを用いて2,4,6-trinitrobenzene sulfonic acid(TNBS)腸炎を作製した。EPCをCM-DiIにてラベリングした上で1×105~1×106 cell/mice移植し、3日後にマウスを屠殺して大腸組織を採取した。蛍光顕微鏡を用いて腸管炎症組織におけるEPCの集積を検討したところ、肝臓、腎臓、肺に集積を認めたものの、腸炎組織に集積は確認できなかった。移植方法として尾静脈からの経静脈投与、腹腔内投与を試したが、いずれにもEPCの集積は認めなかった。大腸炎モデルとしてDextran sulfate sodium(DSS)腸炎モデルも作製して検討したが、やはり集積は認めなかった。よってナノ粒子製剤のバイオドラッグデリバリーシステムの標的細胞としてEPCは不適当であると判断した。 次に、近年その炎症抑制作用が明らかとなっている脂肪由来間葉系幹細胞(Adipose-Derived Stromal Cells: AdSC)に着目した。C57BL/6マウスの脂肪組織よりAdSCを採取し、上記と同様にCM-DiIにてラベリングした上でDSS腸炎およびTNBS腸炎モデルに移植したが、いずれにも集積は認めなかった。 最終的に、移植経路として経動脈的投与を検討した。内径動脈よりカテーテルを胸部大動脈まで挿入し、AdSCを経動脈的に投与したところ、大腸組織に多数の細胞集積を確認できた。さらにDSS腸炎とTNBS腸炎のいずれにもAdSCが集積することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、ナノ粒子製剤のバイオドラッグデリバリーシステムとして幹細胞を用い、ナノ粒子製剤と幹細胞の抗炎症作用に相乗効果をもたらすハイブリッド型治療法の検討である。このシステムを働かせるためには、当然ながら幹細胞が炎症組織に集積する必要性があるが、これまでの他臓器での報告に反して、大腸炎症組織へのEndothelial Progenitor Cells(EPC)の集積作用はそれ程強くはなかった。すなわちマウス骨髄よりEPCを採取して培養法にて増殖させた後、CM-DiIにてラベリングした上で1×105~1×106 cell/mice移植し、Dextran sulfate sodium(DSS)腸炎および2,4,6-trinitrobenzene sulfonic acid(TNBS)腸炎に移植したが、大腸に細胞の集積はほぼ認めなかった。よってナノ粒子製剤のバイオドラッグデリバリーシステムの標的細胞に何を用いるか再検討が必要となった。 その後、マウス脂肪組織よりAdipose-Derived Stromal Cells(AdSC)を採取して上記と同様の検討を行ったが、やはり大腸炎症組織に集積はしなかった。解剖学的にも大腸には集積しにくいと考えられ、細胞の移植方法として経動脈的投与を行ったところ、最終的には多数の細胞集積を確認できた。しかしこの手技はこれまで報告のない方法であり、当初は大腿動脈より逆行性にカテーテル挿入を試みたが、大腿動脈は径が小さすぎて困難であった。内径動脈よりカテーテルを胸部大動脈まで挿入して細胞移植することで成功を得たが、この手技を確立するために膨大な時間を要した。以上の様な経過であり、当初の実験計画予定からは若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ粒子製剤のバイオドラッグデリバリーシステムの標的細胞としてAdipose-Derived Stromal Cells(AdSC)を用い、腸炎モデルに経動脈的に移植してその炎症抑制効果を検討する。具体的には、まずDextran sulfate sodium(DSS)腸炎に対してAdSCを移植し、その炎症抑制効果を確認する。次に、すでに確立してある手法によりAdSCにナノ粒子化した製剤(現在、スタチン製剤を検討中)を抱合させ、DSS腸炎に移植する。これにより、ナノ粒子製剤とAdSCの抗炎症作用に相乗効果をもたらすハイブリッド型治療法の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の初年度の計画では、マウス骨髄由来のEPCをTNBS腸炎に移植し、大腸炎症組織への集積した上で、FVB/N-TgN[TIE2LacZ]182Satoマウスを用いて骨髄よりEPCを分離し、腸炎に移植することでEPCの腸管での動態を長期間に渡って観察する予定であった。しかしEPCが移植方法や移植細胞数を変更して検討しても大腸炎症組織に集積しなかったことから、ナノ粒子製剤のバイオドラッグデリバリーシステムの標的細胞としてEPCは不適当であると判断した。よって予定していたFVB/N-TgN[TIE2LacZ]182Satoマウスを使用せず、EPCの代わりにAdSCをバイオドラッグデリバリーシステムの標的細胞として検討を開始した。初年度に申請していた費用の中で上記マウスの費用は使用しない流れとなり、これまでの検討に使用したマウスは我々が継代飼育しているマウスも使用してきたため、初年度の費用は低くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究にてマウスAdipose-Derived Stromal Cells(AdSC)の新たな移植方法を開発したため、今後はナノ粒子製剤のバイオドラッグデリバリーシステムの標的細胞としてAdSCを用い、腸炎モデルに経動脈的に移植してその炎症抑制効果を検討する。具体的には、まずDextran sulfate sodium(DSS)腸炎に対してAdSCを移植し、その炎症抑制効果を確認する。次に、すでに確立してある手法によりAdSCにナノ粒子化した製剤(現在、スタチン製剤を検討中)を抱合させ、DSS腸炎に移植する。これにより、ナノ粒子製剤とAdSCの抗炎症作用に相乗効果をもたらすハイブリッド型治療法の検討を行う。 費用として、AdSCの培養に使用する培養液、器具、また腸炎抑制効果を検討するために行なうPCR法、ELISA法に使用する試薬、さらにはAdSCにナノ粒子化した製剤を抱合するのに使用する試薬、器具など、初年度に使用しなかった分も2年度に使用する予定である。
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