研究実績の概要 |
【背景と目的】脂肪組織由来幹細胞(Adipose-derived stem cell: AdSC)は多分化能のみならず免疫調整作用を有し,自己細胞移植治療のソースとして注目されている.一方,スタチン製剤は血清コレステロール低下作用以外に炎症抑制や幹細胞分化促進などの多彩な作用を示す.我々はスタチンを徐放するナノ粒子をAdSCに抱合し,AdSCとスタチンの相乗作用により炎症抑制をもたらす新たな治療法を開発し,マウス腸炎モデルに対する治療効果を検討した. 【方法】マウス皮下脂肪よりコラゲナーゼ処理にてAdSCを分離・培養した.生体分解性ポリマーのpolylactic glycolic acid (PLGA)にsimvastatinを封入したナノ粒子をAdSCに抱合(Sim-AdSC)させ,AdSCおよびSim-AdSCの細胞機能を評価した.次に8週齢のC57BL/6JマウスでDSS腸炎を作製し,蛍光ラベルしたAdSCを経静脈的,経動脈的,腹腔内に投与し,腸管組織へのAdSC集積を蛍光顕微鏡下で観察し,適切な細胞投与経路を決定した.さらにPBS投与群,AdSC投与群,Sim-AdSC投与群に分け炎症抑制効果を比較検討した. 【結果】Simvastatin封入PLGAナノ粒子をAdSCに抱合させたところ,AdSCの遊走能と増殖能は有意に増強した.またAdSCの経静脈的,腹腔内投与では腸管組織に集積しなかったが,経動脈的投与にて集積が確認できた.AdSC単独移植にても体重変化,腸管長,病理学的評価,RT-PCR(IL-1b,6, 17, TNFa)で有意な改善効果が認められたが,Sim-AdSC群ではさらに著明な炎症抑制効果が確認できた. 【結論】Simvastatin封入PLGAナノ粒子抱合により,マウス腸炎モデルにおけるAdSCの腸管炎症抑制効果がさらに増強されることが明らかになった.
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