研究課題
ウイルスセンシング機構の遺伝的多様性とウイルス側因子や他の環境要因との間の相互作用に注目した遺伝学的解析から、各分子やパスウェイの病態への寄与を評価することを試みる研究である。初年度から収集を続けているゲノム試料を利用して、ウイルス感染~免疫応答経路の候補遺伝子について、遺伝子多型解析を実施した。より多くの症例についてInvader法にてタイピングを行い、SNPアレル頻度について表現型との関連について統計学的有意性を検討した。また、遺伝子多型間の相互作用なども含めた解釈を試みた。具体的には、HCV感染時の免疫応答に重要な役割を果たすHLA-DQやIFNL4あるいはIL28B、インターフェロン誘導遺伝子の一つであるOAS1の遺伝子多型間の相互作用や遺伝子発現量への影響についても、興味深い知見を得た(HCV持続感染におけるIFNL4とHLA-DQの遺伝子多型間相互作用.第101回日本消化器病学会総会)(HCV慢性感染肝組織内でのOAS1発現は自身近傍のSNPよりもIL28B近傍のSNPにより強く調節される.第51回日本肝臓学会総会)。新規HBVレセプターNTCPについてもより詳細な検討を行った。アジア人特有かつアジア人の間でも頻度差のある機能的アミノ酸変異S267Fについて、二千例超の日本人B型慢性肝炎群のSNPタイピングを行ったが、HBV感染成立や病態進展における重要性を示唆する結果は得られなかった(The Liver Meeting 2015. San Francisco)。さらに、NTCPを含む100kbの領域から選定した15個のタグSNPを検討したが、ここでもNTCPの重要性を示すような結果は得られなかった(APASL2016. Tokyo)。これらの他にも、いくつか興味深い知見が得られており、追認試験、相互作用解析などをさらに進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
ウイルスの認識から免疫応答に至る経路にのった遺伝子群について、遺伝子多型解析による重要性の評価を試みている。利用可能なゲノムDNAサンプルはHBVおよびHCV慢性感染者のいずれも予定の2,000例を超えており、現在も引き続き収集中である。また、予定通り候補遺伝子群について、各遺伝子座位から解析候補SNPを選定し、SNPタイピングを実施した。解析する表現型との有意な関連が確認できたSNPについては、再現性確認のための追認試験を随時行っている。また同時に、単一SNPごとの解析にとどまらず、複数の相互作用に着目した解析を進めており、単一SNP解析のみでは見えてこなかった興味深い知見がいくつか確認できたため、学会発表を行った。ここまでは予定通りの進捗状況である。
解析候補として選定されたSNPについて、これまでのスクリーニングから有望なものをさらに絞り込んで、独立したサンプルセットを用いた追認試験へと進め、再現性の確認を行う。さらに、高密度なSNPタイピングやシークエンスで真の責任SNPを決定する。得られたSNPジェノタイプの結果については、病態進展との関連を慎重に解析する。解析に際しては、従来の関連解析の手法に加えて、より詳細な臨床情報(ウイルス情報を含む)を組み込んだ、各因子間の相互作用(SNP-SNP、SNP-環境因子)を検出する方法を探索する。その相互作用を含めた上で、ウイルスセンシング経路全体としての病態(表現型)への寄与度を明らかにし、臨床応用に有益な情報を引き出す。得られた成果については、引き続き学会発表を積極的に行うとともに、論文でも発表を行う。
試薬を中心とした物品費については、研究を円滑に進めることを第一にしつつも、コストを抑えるために、試薬の使用期限等に注意しながら、適宜、まとめて購入するよう心掛けている。今回は、その購入のタイミングと年度収支の区切りとが合わなかったため、無理な購入は行わず、一部を次年度にまわして、引き続き効率的な予算活用を行うこととした。
これまで、コストを抑えた効率的な物品購入のため、年度の区切りにとらわれず、シームレスに購入単位や時期を決めてきた。いくらかの次年度への繰り越しが生じているものの、ここまで研究自体は順調に進捗しており、最終年度となる次年度中には、当初の研究計画(3年間の全体像)通りに物品費(消耗品)として使用する見通しが立っている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 9件)
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