研究課題
大腸癌の効果的な治療法の検討を目的とした。癌細胞の増殖メカニズムとして「オートファジー」と「小胞体ストレス応答」に着目した。マウスにAOM/DSSを投与すると大腸癌が発生する。この大腸癌において、正常の大腸組織と比較し、K19陽性細胞が増加し、オートファジーが活性化した。次に、タモキシフェンの投与によってK19陽性細胞でオートファジーが不能となるK19-CreERT/ATG5flox/floxマウスを作成した。このマウスにAOM/DSSを投与し大腸癌を発生させた。続いてタモキシフェンを投与すると、大腸癌組織選択的なオートファジー阻害が確認できた。オートファジーを阻害したマウスでは、阻害していないマウスと比較し、大腸癌のサイズが縮小した。オートファジー阻害薬(クロロキン)による治療でも同様の効果を得た。オートファジーを阻害した大腸癌組織においてはBiPなどの小胞体ストレス応答に関連する分子が活性化しており、癌細胞がオートファジー阻害下での生存のために代償的に小胞体ストレス応答を利用していると考えた。近年、癌細胞の持つ遺伝子変異によって分子標的薬の効果が異なることが知られてきている。癌抑制遺伝子p53に変異のないヒト大腸癌細胞株HCT116に対してオートファジーを阻害すると、細胞死(アポトーシス)を誘導できた。しかし、p53に変異のある細胞株ではオートファジーによるアポトーシスは減少した。RNA干渉法を用いてオートファジーと小胞体ストレス応答の同時阻害を行うと、p53に変異のある細胞株に対しても、効果的にアポトーシスを誘導することができた。癌の分子標的治療の効果はその遺伝子変異によって異なり、癌細胞が生存に利用する複数の経路を同時に阻害することが効果的な可能性があることを提示できたと考察し、学術誌に報告した(BMC Cancer. 2015 Oct 24;15:795)。
すべて 2015
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BMC Cancer
巻: 15 ページ: 795-808
10.1186/s12885-015-1789-5