老化に伴い糖尿病やメタボリック症候群、心不全といった疾患が増加することが知られているが、その制御メカニズムは未だ多くの謎に包まれている。p53などの老化シグナルが加齢関連疾患の発症・進展において重要な働きをしていることが示唆されるが、心不全時に心臓老化が進行していく機序は未だ明らかではなく、本研究では心不全時に心臓老化が進行し心不全を発症進展させる分子機序を明らかにすることを目的として研究を開始した。 野生型マウスに大動脈縮窄術(TAC)を用いて圧負荷モデルを作成したところ、炎症性細胞浸潤が生じ心機能が低下するとともに、心筋組織内の血管内皮細胞や骨髄細胞においてp53シグナルが上昇した。そこで、血管内皮や骨髄で特異的にp53を欠損させたマウスで心不全モデルを作成したところ、これらのマウスでは心機能が正常に保たれ、心臓の炎症も改善することがわかった。さらにその分子機序について検証したところ、圧負荷時の血管内皮ではintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)が、骨髄細胞ではインテグリンの発現が増加することで心臓における炎症が惹起されることが明らかとなった。また心不全時には交感神経系が亢進することが知られているが、培養血管内皮細胞やマクロファージをノルエピネフリンで刺激するとp53シグナルが有意に上昇した。圧負荷モデルマウスにおいて、血管内皮や骨髄細胞のβ2アドレナリン受容体の発現を抑制すると、心臓の炎症や心機能が有意に改善した。これらの結果から、交感神経シグナルがp53レベルの上昇を介して血管内皮や炎症細胞の細胞接着因子の発現を亢進させ、心臓炎症を介して心機能が低下することが明らかとなった。本研究により、圧負荷時には交感神経シグナル-p53-ICAM-1/インテグリン経路により心臓炎症が惹起されることがわかった。
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