研究実績の概要 |
皮下脂肪組織由来間質細胞は、体性幹細胞(自己由来間葉系幹細胞)として、急性心筋梗塞患者の再灌流治療後に経冠動脈的に投与すると、主に血管新生の促進やアポトーシス/心筋線維化の抑制(梗塞範囲の縮小)という機序を介して残存心機能の改善をもたらすことが報告されているが、左室収縮能改善効果は十分とは言えない。我々は治療に用いられる自己皮下脂肪由来幹細胞の再生誘導効果が個々に異なるという仮説を立て検証を行った。平成26年度は、マウス皮下脂肪組織からの効率的な間質細胞分画の単離法の最適化とフローサイトメトリー解析の条件設定を実施した。当初の予定では、マウスの生活習慣病モデルマウスを作成し、間葉系幹細胞マーカーの頻度の比較を行う計画であったが、マウスモデルの作成が予定通りに進まなかったことから、平成27年度は、金沢大学医学倫理委員会の承認を得て、ヒトの皮下脂肪組織の間葉系幹細胞のプロファイリングと背景疾患との関連を調べる臨床研究を実施した。心血管疾患に対する待機的手術を受けた患者17例をエントリーした。17例の平均年齢は72歳、うち男性12例。高血圧94%、脂質異常77%、糖尿病59%、喫煙者65%であった。左室駆出分画が40%未満の低心機能患者は24%であった。以上の症例に対して、手術時に得た余剰皮下脂肪組織1-2gを酵素処理して、フローサイトメトリー法にて間質細胞群の表面抗原(CD34, CD90, CD31, CD44, CD271)を測定した。その結果、症例ごとに間質細胞群の表面抗原プロファイリングが大きく異なることが分かった。注目すべきことに、再生治療効果が高いとされるCD271陽性細胞の含有比率(CD34陽性細胞に対する比)が症例ごとに特に大きなばらつきを認め、個々の背景が皮下脂肪由来間葉系幹細胞プロファイリングに影響し、治療効果に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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