研究課題
①肥満を背景とした糖尿病性心筋症におけるmiRNAの機能解析我々はC57BL/6Jマウスに高脂肪食を20週摂食させることで、肥満と2型糖尿病を誘導したところ、心臓においてmiR-451が有意に上昇することを見いだしていた。本年度は心筋細胞特異的miRNA-451欠損マウスに高脂肪食を摂食させ、その表現形を解析した。心重量/頸骨長比は高脂肪食を摂食させたコントロールマウスでは、有意に増加していたが、miR-451欠損マウスではその増加が軽減していた。組織学的検討では心筋細胞肥大が抑制されていた。またタンパク量の評価により、高脂肪食を摂食させたコントロールマウスで見られたCab39/LKB1-AMPK経路の抑制がmiR-451欠損マウスでは軽減しており、タンパク質合成に重要なmTOR経路がmiR-451欠損マウスでは低下していることを発見した。また毒性のあるセラミドの定量を行ったところ、高脂肪食を摂食させたコントロールマウスでは有意に上昇し、逆に高脂肪食を摂食させたmiR-451欠損マウスでは、その蓄積が軽減していた。最後に、ドブタミン負荷下で血行動態を評価すると、高脂肪食負荷miR-451欠損マウスでは収縮予備能低下の改善が認められた。以上の結果から、高脂肪食により誘導されるmiR-451は心筋細胞に悪い影響を与えると結論づけた。②心肥大に関与するlincRNAの機能解析着目するlincRNAのノックダウンの系を確立するために、shRNAやmiRNAを用いたが、明らかな有効性は見いだせなかった。しかしGapmeRという人工核酸を用いることで、筋芽細胞株であるC2C12細胞においてノックダウンを行うことに成功した。またルシフェラーゼアッセイにより、着目するlincRNAに結合するmiRNAを探索していたが、4種類のmiRNAと結合することを見いだした。miRNAはターゲット遺伝子の翻訳を抑制することが知られているが、lincRNAの過剰発現を行うと、1つのmiRNAのターゲットの蛋白レベルの増加を認めた。
1: 当初の計画以上に進展している
①肥満を背景とした糖尿病性心筋症におけるmiRNAの機能解析本年度の目標としていた事項は、研究実績の概要に記載した通りほぼ達成した。それに加えmiR-451がパルミチン酸によって濃度依存性に上昇することや、miR-451のターゲット遺伝子の過剰発現により、パルミチン酸による細胞障害が軽減されることも培養心筋細胞を用いて確認した。また大きな変化は認めなかったが、miR-451の心筋細胞特異的欠損マウスにおいては中性脂肪、ジアリルグリセロール等の定量も行った。生体におけるmiR-451の上昇のメカニズムを評価するため、GATA-4という転写因子の発現を評価したところ、高脂肪食を負荷したマウスにおいてはGATA-4の有意な上昇を認めた。以上の結果は、肥満や飽和脂肪酸によるmiR-451の上昇が、心収縮予備能低下に関与していることを示唆するものであり、Circulation Reserchに論文発表した。②心肥大に関与するlincRNAの機能解析本計画においては、当初の予定通りGapmeRを用いてノックダウンの系も確立し、また結合するmiRNAの同定も終了した。こちらは予定通りの進行状況である。以上から本年度は当初の予定以上に進展していると考えている。
①肥満を背景とした糖尿病性心筋症におけるmiRNAの機能解析パルミチン酸はミトコンドリア機能障害を引き起こし、細胞死を誘導することが知られている。またAMPKはミトコンドリアの生合成に関与することが多数報告されている。そのためmiR-451がミトコンドリア機能に影響を及ぼす可能性が推察される。そこでmiR-451がミトコンドリア機能に及ぼす影響を、酸素消費量や培養液のpH変化が測定可能なフラックスアナライザーを用いて詳細に検討する予定である。②心肥大に関与するlincRNAの機能解析マウス心筋細胞と、筋芽細胞株のC2C12細胞にGapmeRを投与することで、lincRNAをノックダウンし、その表現系を評価することで、機能を明らかにする予定である。具体的には心筋細胞では、肥大刺激下でノックダウンしたときに、肥大マーカーがどのように変化するかをRT-PCRで定量する。またC2C12細胞では、ノックダウン下で分化させ、分化マーカーの変化を定量する。他にはlincRNAと結合するRNA結合タンパク質の同定を行う。また可能であれば生体での機能も検討するため、GapmeRをマウスに投与し、骨格筋や心臓での表現型の解析を行い、lincRNAの生体での機能を評価したいと考えている。
国際学会参加回数が予定より少なく、また動物飼育費も予定より少なかったため、旅費とその他で使用額が予定を下回った。しかし消耗品に使用した額は予定より多く必要であった。
次年度も引き続き、使用の減額につとめる予定であるが、消耗品購入(GapmeR等)やマウス飼育等で予定より多く必要になる可能性もある。予定を簡潔に示す。①肥満を背景とした糖尿病性心筋症におけるmiRNAの機能解析ではmiR-451の機能をさらに詳細に検討する。ミトコンドリア機能に及ぼす影響を、フラックスアナライザーを用いて調べる予定であるため、解析に必要な物品を購入予定である。②心肥大に関与するlincRNAの機能解析では、マウス心筋細胞や筋芽細胞へのGapmeRの導入、またマウスへのGapmeR投与を行い、lincRNAの機能を詳細に検討する予定である。そのため、GapmeR購入を含めた消耗品購入や動物飼育費に使用予定である。更に本年度も、海外や国内の学会への参加を予定している。また論文発表時には印刷代も必要となると考えられる。
第九回 高血圧と冠動脈疾患研究会で口頭発表し、研究賞を受賞9th Metabolic Syndrome, Type 2 Diabetes and Atherosclerosis CongressではPoster Awardを受賞
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http://kyoto-u-cardio.jp/kisokenkyu/metabolic/