研究課題
1. 活性型第X凝固因子(FXa)によるマクロファージ活性化の検討をin vitroで検討した.マウスのマクロファージ系培養細胞であるRAW264.7細胞や,野生型マウスの腹腔内マクロファージを用いて定量的RT-PCR法で検討した.その結果,FXaがマクロファージに作用し,炎症性物質の発現を亢進させることを明らかにした.また,FXaの作用受容体であるprotease-activated receptor(PAR)-1やPAR-2に対する選択的アゴニストを投与したところ,同様に炎症性物質の発現が亢進した.このことから,FXaがPARをシグナルを介して炎症性サイトカインの発現を促進するという新規の知見を得た.2. 動脈硬化モデルであるApoE欠損マウスに生後8週から西洋食およびFXa因子阻害薬又は偽薬を20週間与え,動脈硬化の形成を比較した.病理組織学的解析にて,FXa因子阻害薬により大動脈の動脈硬化病変の形成が抑制され,動脈硬化巣におけるマクロファージ浸潤やコラーゲン分解が有意に抑制された.またFXa因子阻害薬の投与群では大動脈壁における炎症性物質の発現が有意に抑制された.このことから,生体内においてFXaが動脈硬化の形成や不安定化,動脈の慢性炎症に寄与するとの新規の知見を得た.3.PAR-2欠損マウスとApoE欠損マウスを交配し,二重欠損マウスを作製し,西洋食負荷によって誘導される動脈硬化病変の大きさやプラーク性状,炎症性物質の発現などを通常のApoE欠損マウスと比較検討した.その結果,二重欠損マウスでは有意に動脈硬化の形成や不安定化,大動脈壁の炎症が少なかった.このことから,FXaの作用受容体であるPAR-2のシグナルが動脈硬化の形成や不安定化,動脈の慢性炎症に寄与するとの新規の知見を得た.
2: おおむね順調に進展している
本年度までに実施した研究の進展状況に関しては,交付申請書に記載した「研究の目的」,での予定どおりに進展しており,現在までの研究段階の一部を別記の如く論文として発表している.併せて,次年度に予定している研究計画の一部に関しては,既に事前準備に着手している段階である.以上の状況から,現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と評価できるものと考えている.
1 骨髄特異的PAR-2欠損マウスと骨髄特異的PAR-2発現マウスを用いた検討FXaがPAR-2を介してマクロファージを活性化し,炎症を惹起して動脈硬化病変形成に重要な役割を果たすという仮説を証明するため,様々なバリエーションにおける骨髄移植を行い,骨髄特異的PAR-2欠損マウスと骨髄特異的PAR-2発現マウスを作製し,西洋食負荷下での動脈硬化性変化の程度・性状を,同時に作製する各コントロール用骨髄移植マウスと比較する.動脈硬化病変の多寡や,分子生物学的機序は,計画2-(1)と同様に解析を行なう.この実験により,骨髄由来細胞(マクロファージ)のPAR-2の動脈硬化病変形成における役割が明らかになる.2. マクロファージのPAR-2活性化におけるシグナル伝達系の解析PAR-2による細胞内シグナル伝達は,共役するG蛋白を介することが報告されているが,それ以降の,特にマクロファージにおける詳細なメカニズムに関しては,十分知られていない.そこで,本研究では,実験計画1に示したマクロファージの活性化を検討する系に,様々なシグナル伝達経路の阻害剤を作用させて,関与する経路をスクリーニングし,その上で,関連因子をsiRNA でノックダウンすることで,その経路の関与を確認する.さらに,各シグナル伝達系のreporterを用いたreporter assayなどを併用し,総合的に関連シグナル伝達系を検討する.これらの実験は,PAR-2制御による,動脈硬化性疾患の治療や予防方法の開発を視野に入れた際,非常に重要である.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Atherosclerosis
巻: 242 ページ: 639-646
10.1016/j.atherosclerosis.2015.03.023.