研究実績の概要 |
我々は、脂質の心血管臓器に対する生理学的意義や病態発症の分子メカニズムを解明するため研究を行なってきた。その結果、心臓に局在するマクロファージから産生されるω-3脂肪酸EPA代謝物中に、強い抗炎症性・抗線維化作用を有し、病的な心臓リモデリングに対する抑制効果をもつ18-HEPEの存在を見出した(J Exp Med. 211(8):1673-87, 2014)。 18-HEPEは低濃度で生理活性を示し、濃度依存性に心臓線維芽細胞のIL-6産生を抑制したため、高親和性の受容体、特にGPCRを標的とした受容体探索を開始し最適な細胞株および刺激分子を選出している。現在も18-HEPEの作用点の同定には至っていないが探索を継続している。 心臓に蓄積した脂質は、膜脂質の飽和化やω-3脂肪酸比の低下といった細胞・組織の脂肪酸バランスの破綻を招くことで、心筋細胞の機能低下や細胞死、または線維芽細胞の活性化、炎症細胞浸潤といった心臓組織の機能的・組織的傷害を誘導すると考えられている。しかし、異所性の脂肪蓄積は、心臓脂肪毒性という概念として古くから研究されているが、その詳細なメカニズムや意義については不明な点が多い。 これまでの研究から、脂肪毒性には、脂質代謝物中の生体保護的な脂質の存在も重要と考えており、このような脂質代謝物のプロファイルの修正も脂肪毒性の治療に有用ではないかと考えている。現在、遺伝学的に心筋細胞内に脂質を異常蓄積し、それぞれ溜まる脂質の形態が異なる3種類のユニークな遺伝子改変マウスを用意しており、脂質解析を始めている。培養細胞でも胎児ラットの初代心筋培養を用いて、飽和脂肪酸の毒性を評価しているが、この脂肪毒性は不飽和脂肪酸でレスキューできることを確認している。今後も研究を進め、脂質の心血管系疾患に及ぼす影響を分子学的に解明し、新たな治療戦略の創出につなげたいと考えている。
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