研究実績の概要 |
血液凝固カスケードの最終産物であるトロンビンはprotease activated receptor-1を介して、胃の収縮、障害血管の修復、血小板凝集など様々な生理的作用を示すことが知られている。トロンビンは様々な組織に存在し内皮細胞や線維芽細胞でもその存在が確認されている。我々は心臓においても組織トロンビンが存在する事をヒトの剖検心を用いて免疫組織学的に証明した(Ito. K, PloS One, 2013)。一方、拡張型心筋症患者の血液では血液中のトロンビンが亢進している事が報告されている。心臓組織にもトロンビンは存在するため、拡張型心筋症ではこの組織トロンビンが亢進している可能性がある。そこで、我々は拡張型心筋症モデルマウス(B6;129-Tnnt2 tm2Mmto)を用いて組織トロンビンが拡張型心筋症の病態に関与しているかどうかを検討した。 拡張型心筋症モデルマウス(DCM群)に対して、4週目から8週目まで直接的トロンビン阻害薬であるダビガトランを6g/日投与した群(DCM+D群)、およびwild type(Wild群)の3郡を比較検討した。DCM群ではWild群と比較して心重量の増加が認められたが、ダビガトラン投与により心重量の増加が抑制されていた。また、心臓超音波検査ではDCM群では左室収縮能の低下が認められたが、ダビガトラン投与により改善が認められた。そして、生存率もDCM+D群の方がDCM群と比較して改善されていた。心臓における蛋白質発現をウェスタンブロット法を用いて検討するとWild群と比較してDCM群では有意にトロンビンの発現が増加していた。TUNEL染色を行った結果、DCM群で見られたTUNEL陽性細胞がダビガトラン投与により抑制されておりアポトーシスの関与が示唆された。以上より拡張型心筋症の病態には組織トロンビンが関与していると考えられた。
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