研究課題/領域番号 |
26860590
|
研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
澤田 悠 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (00594764)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 腹部大動脈瘤 / 鉄 / 炎症 / 酸化ストレス / トランスフェリンレセプター |
研究実績の概要 |
ヒトAAA組織を用いた検討にて、AAA組織における鉄沈着を明らかにした。また、AAAの病態生理に深く関わる酸化ストレスおよび炎症について、8-OHdGおよびCD68を用いた免疫組織染色にて検討したところ、AAA組織においてそれらの発現が亢進し、さらに鉄沈着部位と近接して存在していることを見出した。これらの結果より、AAAの病態生理への鉄の関与が示唆された。 次に、ApoE欠損マウスにアンジオテンシンIIを投与するAAAモデルマウスに対し、食事性に鉄制限を行い、AAA形成における鉄の関与について検討した。興味深いことに、AAA発生率は食事性鉄制限により有意に抑制された。大動脈における鉄沈着は、マウスAAA組織においても確認されたが、食事性鉄制限下の大動脈組織においては認めなかった。また、AAA形成のメカニズムとして大動脈組織おけるJNKおよびMMP-2/-9の活性化が報告されているが、食事性鉄制限はこれらの活性化も抑制し、AAA形成のメカニズムへの鉄の関与が示された。 また、鉄沈着のメカニズムを明らかにするため、大動脈における鉄輸送タンパクに着目し検討を行ったところ、マウスAAA組織において、細胞内鉄取り込みタンパクであるtransferrin receptor 1 (TfR1)および細胞外鉄くみ出しタンパクであるferroportin発現の亢進を認めた。 これらTfR1およびferroportin発現亢進および鉄含有量の増加は、同モデルのAAA形成前の大動脈組織でも確認されており、大動脈におけるTfR1発現異常はAAAの病態生理へ関与していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の平成26年度の計画では、大動脈組織における鉄輸送タンパクの評価および大動脈におけるJNK活性への鉄の関与の検討であった。
ヒトおよびマウスAAA組織において、鉄輸送タンパクであるトランスフェリンレセプターおよびフェロポルチンの発現異常を同定している。一方で、大動脈におけるJNK活性への鉄の関与についても、大動脈組織におけるJNK活性化に鉄が必須であることは同定している。
以上のように、当初の計画通り概ね順調に進展していると考える。平成27年度は、TfR1ヘテロノックアウトマウスを用い、さらなる詳細なメカニズムの検討を計画している。
|
今後の研究の推進方策 |
【動物実験】 申請者らはTfR1ヘテロ欠損マウスを所有しており、ApoE欠損マウスとの2重欠損マウスの作製を計画している。本研究ではこの作成したマウスを使用し、アンジオテンシII投与によるAAA形成への影響を検討するとともに、組織内鉄濃度および他の鉄輸送タンパクへの影響、サイトカイン分泌やマクロファージの分化・増殖などへの効果を中心に解析を行う。またJNKやMMP-2/-9といったAAA形成に関連する分子シグナルに関しても検討を行う。さらに大動脈周囲にCaCl2を塗布する別のAAAモデルでも検討を行う。また、AAA動物モデルに対して、抗TfR1抗体を用いてTfR1の薬理学的阻害を行い、AAA形成に対する効果についても検討を行う予定である。 【細胞実験】 これまでに、マウスAAA組織におけるTfR1発現部位は、F4/80陽性マクロファージおよび鉄沈着領域と近接して存在することを確認している。そこで、THP-1細胞をPMAにてマクロファージへ分化させる系を用いた検討を計画している。アンジオテンシンIIやTNF-αといった刺激に対するマクロファージの反応が、TfR1をはじめとする鉄輸送タンパク発現を遺伝学的に増加・減少させることで、どのように変化するかを解析する。マクロファージの反応としては、分化・増殖やサイトカイン分泌などを考えている。また、培地中鉄濃度のマクロファージへの影響なども検討予定である。
|