研究課題
腹部大動脈瘤(AAA)の病態生理において、酸化ストレスや炎症は重要な役割を担っていることが知られている。一方、鉄は必須な元素であるが、過剰に存在すると酸化ストレスや炎症の原因となる。そこで本研究は、酸化ストレスおよび炎症を介したAAA形成のメカニズムを鉄の観点より検討した。まずヒトAAA組織を用いて検討したところ、AAA組織において鉄沈着・8-OHdG・CD68発現が増加していることが確認された。また、8-OHdGおよびCD68発現部位は鉄沈着部位と近接し、それら発現領域は鉄沈着面積と正相関していた。次に、AAAモデルマウスを用いた動物実験を行い、食事性鉄制限という手法にてAAA形成メカニズムへの鉄の関与をより詳細に検討した。その結果、食事性鉄制限によりAAA発生率は有意に低下することを見出した。また、AAA形成への関与が報告される大動脈MMP-2/-9活性およびJNKリン酸化の亢進が食事性鉄制限により抑制されることを明らかにした。これらの結果より、鉄はJNKリン酸化およびMMP活性化を介してAAA形成に関与していると考えられた。一方、大動脈への鉄沈着のメカニズムとして、細胞内鉄取り込み受容体であるTfR1に着目し検討したところ、大動脈TfR1発現はヒトおよびマウスAAA組織において亢進しており、マクロファージマーカーであるF4/80と共発現し、鉄沈着領域と近接して存在していた。さらに単球系細胞株であるTHP-1細胞を用いた細胞実験を行ったところ、THP-1細胞におけるTfR1発現は、AAA増悪因子であるアンジオテンシンII刺激により亢進し、アンジオテンシンII刺激により亢進するJNKリン酸化およびMMP活性は鉄キレートにより抑制されることを明らかにした。本研究結果は、AAA形成への鉄の関与を示唆しており、大動脈内鉄代謝はAAAに対する新規治療標的となり得ることが示された。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology
巻: 35 ページ: 1507-1514
10.1161/ATVBAHA. 115. 305586