研究課題
現在、心臓・血管疾患の一次予防および二次予防における治療の原則は、スタチンによる低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の低下療法である。これまでの多くの大規模臨床試験の結果から、LDL-C低下療法は30~40%程度の血管イベント発症を抑制できるが、更なる予防としての次世代の脂質治療の1つである高比重リポ蛋白(HDL)をターゲットとする治療が注目されている。1999年ABCA1脂質膜輸送体が家族性HDL欠損症の原因遺伝子として同定され、これがHDLを新生し、また細胞内余剰コレステロールを排出していることが判明した。私たちはこれまでHDLの機能を増強させる合成HDLの開発を進め、ABCA1輸送体依存的に作用し、生体内にてHDLを自己形成する実用化に適した新規アポ蛋白A-I類似ペプチドの開発に成功した(FAMP=Fukuoka University ApoA-I Mimetic Peptide)。このペプチドは、ABCA1依存性コレステロール引抜き能を増加し、小粒子HDLの新生を増加させることによりHDLの機能活性を亢進しマウスにおける大動脈プラークを抑制することが明らかとなっている。この放射線標識された68Ga-DOTA-FAMPは、動脈硬化ウサギにおける大動脈プラークを描出・イメージング出来ることから、本ペプチドはプラーク局所に留まり抗動脈硬化作用を発揮している事が確認できている。そこで、本ペプチドの多種蛍光標識トレーサーを作製、開発することによって主に次の2点、1,そのターゲット分子、作用メカニズムの詳細を明らかとする。2,本ペプチドはHDL様分子特性をもつことから、プラークを形成する早期段階の動脈硬化においても相互作用することが推察される。そのため、この新規ペプチドを用いたヒト早期動脈硬化の血中バイオマーカーとしての有用性について明らにすることが本研究の主目的である。
2: おおむね順調に進展している
当施設に設置済みの全自動ペプチド固相合成装置を用いて既開発のiCEペプチド(FAMP)の合成を行った。脱保護の際、FITCの脱離を防ぐためN-末端にβ-Alaを追加したあとFITCを結合させたFITC-FAMPを大量合成し、Sephadex Gel25を用いて精製を行った。質量分析装置MALDI-TOF-MASSを用いて測定し、目的物を同定した。作製したFITC-FAMPを蛍光リガンドとして、A172細胞、RAW264細胞、COS-7細胞、CHO(ldlA7)細胞へインキュベーションしその局在を共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて検討した。また、血液中でのFAMPの局在分画を明らかにするため、native-PAGEを用いて検討した。さらにin vivoについても検討した。C57BL6マウスを用いて、FITC-FAMPを静脈投与24時間後にsacrificeを行った。採血後、心臓、腎臓、大動脈、脾臓を摘出し、パラフィン包埋を行った。それぞれの切片を用いて蛍光同定、免疫組織二重染色にて各組織の標的細胞を同定した。
FITC-FAMPを蛍光トレーサーとして免疫組織学的検討にて標的細胞を明らかとする。また、FITC-FAMPと各ABCA1, ABCG1, ABCG4, SR-BIの遺伝子導入細胞を用いて、それぞれの受容体・輸送体との相互作用を検討し、FITC-FAMPの標的分子まで明らかとする。FACSシステムにおいても、FITC-FAMPを用いて末梢血白血球の中で単球の他、どの細胞において相互作用をしているかを明らかとし、更に単球のなかでもどのような細胞表面マーカーを持つ細胞と作用するかを検討する。この事より動脈硬化のどのステージでFAMPが特異的にイメージングしているかが明らかとなる。
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IJC Heart & Vessels
巻: 4 ページ: 135-137
Circulation Journal
巻: 78 ページ: 2955-2962