研究課題/領域番号 |
26860593
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
有木 宏美 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (40515061)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 麻疹ウイルス / I型IFN / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
麻疹ウイルス(Measles virus, MV)hahuman CD150 (hCD150)を受容体として感染する。個体レベルでの感染防御応答を解明するために、我々はhCD150トランスジェニックマウス(Tg)を作製し、MV感染時の免疫応答をin vivoで明らかにしてきた。 本研究ではまずin vitroにおいてMV感染樹状細胞とT細胞を共培養し、サイトカインの産生量をELISAもしくはCBAアッセイにて検出したところCD4+ T 細胞においてIL-10, IL-13を高産生していた。Th2サイトカインであるIL-4はほとんど産生されておらず、IL-13に傾いたサイトカインプロファイルであった。この分子メカニズムを明らかにするために、MV感染樹状細胞において遺伝子発現変化をマイクロアレイを用いて探索した。MV感染樹状細胞とCD4T細胞との共培養をtrans wellで行うとIL-13の産生上昇は観察されなかったことから、細胞間のコンタクトがIL-13誘導に必要なことが明らかとなった。 in vivoでの感染時にTh2反応が惹起されるかについて、In vivo 感染モデルマウスを用いてluciferase遺伝子を組み込んだMVウイルスを経鼻感染させ、3日後に肺を回収した。感染効率をluciferase 活性で測定したが、残念ながらluciferase活性の上昇は確認されなかった。経気道感染させた場合は、luciferase活性の上昇が観察されたことから、経鼻感染では感染量が低いため、肺組織での感染の検出に限界があると考えられた。また、経鼻感染3日後に肺洗浄液を回収し、IL-4, IFN-g, IL-10, IL-13の産生量をCBAアッセイまたはELISAを用いて測定したが、検出限界以下であった。以上のことから経鼻感染モデルではMVの感染が成立しないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
麻疹感染樹状細胞はIL-13を高産生するT細胞を誘導することが明らかとなったが、その分子機構は不明である。この機構を明らかにすることを目的に、マウス個体を用いてin vivo感染を行ったが、経気道、腹腔内、血管内投与ではウイルスの感染が認められたのに対し、より自然感染に近い、経鼻投与では感染が成立しなかった。また、その時、肺洗浄液中のサイトカイン産生を測定したが、Th2タイプのサイトカイン産生は観察されなかった。経気道投与では感染が成立したことから経鼻投与では肺に到達するウイルス量が少ないために感染が成立しなかったと考えられる。 また、MV感染樹状細胞によるIL-13高産生T細胞の誘導機構については樹状細胞とCD4+T細胞との細胞間の相互作用が必要であることが示唆されるデータが得られている。
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今後の研究の推進方策 |
MV感染時に誘導される免疫抑制の一端はIL-10産生によって引き起こされる。前年度までにこのIL-10がCD4+T細胞より産生されることを明らかとした。MVはまず樹状細胞に感染し、樹状細胞の機能を変化させることで全身性の免疫抑制が誘導されると考えられている。MV感染樹状細胞とnaive T 細胞との共培養ではIL-13, IL-10の高産生が観察されたが、樹状細胞が如何にしてT細胞をIL-10, IL-13産生に傾けるかは不明である。この機構には細胞間の相互作用が必要であることが示唆されたので、今後はマイクロアレイによって候補分子を膜タンパク質に絞り解析を行っていく予定である。 また、個体レベルの解析では麻疹ウイルスの経鼻感染ではマウス個体での感染が成立しなかったことから、経鼻感染による麻疹ウイルスでのTh2応答の解析は困難だと考えられる。そこでTh2応答を誘導することが明らかになっているインフルエンザウイルスを用いて、感染実験を行い、Th2応答の誘導機構を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスを用いた個体レベルでの感染実験を行ったが、当初予定していた経鼻感染では肺に到達するウイルス量が少ないため感染が成立しなかった。そこで当初予定していた必要マウス数より大幅に使用するマウスの匹数が減ったため、マウスの維持管理費用が少なく済んだためである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は麻疹ウイルスの感染方法を経鼻感染ではなく、経気道感染、腹腔内感染を行い、肺洗浄液を回収後、産生されたサイトカインをELISA法、またはCBA法により定量し、Th2タイプの免疫応答の解析を予定している。また、そのほかのウイルスについても感染実験を予定しているため、マウスの使用匹数の増加が予想される。
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