肺がんの分子標的治療薬に対する薬剤耐性には、さまざまな機序が報告されている。チロシンキナーゼを標的分子とした薬剤の場合、その分子をコードする遺伝子変異によって、薬剤とATP結合部位の相互作用で、薬効が低下することが知られている。また、がん細胞内で、生存シグナルを持続するために、標的分子以外のタンパク質が活性化したり、タンパク質発現自体が増強したりすることが知られている。我々の本研究では、このバイパス経路が活性化する機序の解明を行った。 まず、標的分子は遺伝子変異や融合遺伝子などで構成されており、正常細胞には見られない不安定なタンパクであることを利用した。こういったタンパク質が、分子シャペロンによるタンパクのフォールディング機能によって維持されているため、シャペロン分子阻害薬投与は、標的分子の分解を促進し抗がん活性がある。 ALK阻害薬に対する薬剤耐性の細胞株において、このシャペロン阻害薬で分解される分子群を、質量分析法を用いてスクリーニングした。この候補タンパク群の細胞内シグナル経路解析を行うと、focal adhesion経路やIGFR経路が変動していることが分かった。Focal adhesion経路の、Src-Paxillin-CrkII経路に注目し、ALK薬剤耐性株にSrc阻害薬を併用する細胞実験・動物実験を行い、ともにALK阻害薬とSrc阻害薬の併用で耐性が克服されることを突き止めた。 今後は、臨床試験として併用療法の効果・毒性について検討されることが望まれる。研究内容については、2016年米国癌学会において発表し、現在、英文論文として投稿中である。
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