変異型EGFR選択的チロシンキナーゼはEGFR変異肺癌に対する次世代型EGFR-TKIとして期待される分子標的薬である。しかし、この薬剤に対しても耐性が獲得されることが予測され、これまでの研究からその耐性獲得機構としてEpithelial Mesenchyml transition(EMT)の関与が示唆された。肺癌だけでなく、乳癌、頭頸部癌においてもAXL高発現とEMTとの関連性が認められていることから、AXL阻害によりEMTを介した耐性が克服できるかについて検証を行った。まず、第三世代EGFR-TKIのひとつであるWZ4002への耐性を獲得し、EMTとAXLの高発現を認めたEGFR変異肺癌株(WZ耐性株)を樹立した。次に、薬剤耐性にAXL発現が関連しているか否かを明らかにするためにSi-RNAによりWZ耐性株のAXL発現をノックダウンさせた後、WZ4002の効果を検証した。その結果、耐性株のWZ4002感受性の回復は認められなかった。別の4クローンを用いて検証しても同様の結果であったことから、耐性獲得機序はAXLのバイパスシグナルには起因しないことが示唆され、EMT耐性株ではAXL以外の有望な標的分子の探索が必要であると考えられた。 そこで、我々はEMTに関わる転写因子のZEB1に着目した。まず、Si-RNAにより耐性株のZEB1をノックダウンした結果、間葉系から上皮系へmesenchymal-epithelial transition (MET)が誘導され、第三世代EGF-TKIへの感受性回復が認められた。次に、ZEB1を標的にできる薬剤を探索した結果、薬剤AがZEB1を低下させMETを誘導することを明らかにした。同様に、EMT耐性のALK肺癌株においても効果が確認されたことから、薬剤AはEMTに起因する肺癌のチロシンキナーゼ阻害薬耐性の治療に有効である可能性が示唆された。今後は、in vivoにおける薬剤Aの効果について検証を行う。また、METを誘導可能な薬剤のスクリーニングを行い臨床応用可能な治療薬の絞り込みを行う。
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