研究課題
平成26年度は、研究計画調書記載の通り、新しいインフルエンザウイルス(IFV)受容体として見出されたIgSFR2を欠損するマウス(Igsfr2欠損マウス)に対するIFV 感染実験を実施することにより、IFV感染マウス肺炎モデルを構築し、生存率や肺におけるウイルス力価や病理組織像、炎症性サイトカイン/ケモカインの産生などを野生型マウスと比較した。その結果、Igsfr2欠損マウスではIFV感染後の生存率が有意に改善し、肺組織障害の発生が軽減することが明らかとなった。Igsfr2欠損マウスの肺におけるウイルス力価については、感染4日目にかけて一時的に増加するものの、野生型マウスにおいて肺組織障害の発生が観察される感染8日目の時点では大きく減少していた。また、肺胞-気管支洗浄液における炎症性サイトカイン/ケモカイン産生も、Igsfr2欠損マウスは野生型マウスに比較して、IL-6, TNF-α, CCL3/MIP-1α, CXCL1/KC, CXCL10/IP-10などの値が軒並み低値を示した。加えて、IFV 刺激によってIgSFR2 を介した免疫シグナルが活性化される責任細胞の同定を行った。すなわち、野生型マウス、Igsfr2欠損マウス、IgSFR2からのシグナル伝達に関与する分子の欠損マウス由来の骨髄から誘導した樹状細胞を、in vitroにてIFV で刺激し、培養上清における炎症性サイトカイン/ケモカインの産生の差異をELISA で比較した。その結果、形質細胞様樹状細胞における炎症性サイトカイン産生が、IgSFR2/DAP12/Syk/CARD9シグナルによって調節されていることが明らかになった。以上のことから、IFV感染に伴う宿主自然免疫の過剰な活性化に、形質細胞様樹状細胞におけるIgSFR2を介したIFV認識機構が関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度については、新規自然免疫受容体IgSFR2の生体における機能を明らかにすることを目的として、Igsfr2欠損マウスを用いたIFV感染マウス肺炎モデルを構築し、評価を行った。その結果、予定した通りの実験を順調に実施し、生体においてもインフルエンザ肺炎の発生・重症化に、IgSFR2を介した自然免疫活性化機構が関与することを明確に示すことが出来た。また、in vitroの実験では、マウス骨髄から誘導した樹状細胞をIFVで刺激することにより、IgSFR2 を介した免疫シグナルが活性化される責任細胞は、形質細胞様樹状細胞であることを明らかにすることが出来た。しかしながら、当初予定していたIFVで刺激した責任細胞における転写因子レベルでの応答解析、平成27年度に実施を予定していたIgSFR2によって認識される内因性リガンドの同定作業が順調に進展するまでには至らなかったことから、「(2)おおむね順調に進展している。」との評価結果とした。
申請者らのこれまでの予備的検討の結果、本研究で注目する新規自然免疫受容体IgSFR2 は、病原体刺激などによってその発現が増強し、死細胞や何らかの宿主細胞由来成分に強く結合することが明らかとなっている。そこで、研究計画の最終年度となる平成27年度は、新規自然免疫受容体IgSFR2によって認識される内因性リガンドの同定に向け、想定される内因性リガンドのスクリーニングと、IgSFR2 と得られたリガンド候補分子との結合やリガンド候補分子の刺激によるレポーター細胞での活性化シグナル伝達の可否などを、主に分子生物学的・生化学的な手法により解析する。すなわち、前者については、市販の糖鎖アレイや脂質アレイを用いて、in vitro における組換えIgSFR2-Ig との結合を評価する。また、得られたリガンド候補分子については、ELISA などの別の分子生物学的・生化学的手法を組み合わせることにより、IgSFR2 がIFV 感染によって誘導される内因性リガンドの認識に関与し得る否かを検証する。また、後者については、前者の解析の結果、明らかになったリガンド候補分子がIgSFR2 と結合した場合に、細胞内へ活性化シグナルが伝達されるか否かを、IgSFR2 を発現する2B4 NFAT-GFP レポーター細胞をリガンド候補分子で刺激し、フローサイトメーターを用いてNFAT-GFP 活性化を解析することにより検討する。実施を予定している内因性リガンドのスクリーニングについては、事前の予備的検討により、既にいくつかのリガンド候補分子の選定に成功している。そのため、平成27 年度については再現性の取得を主な課題とし、これが順調に進展した場合には、さらに可能な限り詳細なモチーフや化学構造の決定を目指す。
平成26年度については、予定していた解析が概ね順調に進展し、余分な経費負担が発生しなかったことに加え、関連した研究課題で複数の学内研究助成を獲得することが出来たため、約38万円ほどの繰り越しが生じた。
平成27年度の研究費は、主としてマウスの維持と購入、ELISA・フローサイトメーター解析・ウエスタンブロッティングで用いる抗体や測定分析キット、分子生物学研究用の試薬などの消耗品の購入に充てられる。また、本研究を遂行する上で、細胞の分離培養を行うための試薬やプラスティック器具の購入も不可欠である。以上の消耗品の購入には、これまでの試算から年間100万円程度を見込んでいる。また、研究協力者との研究打ち合わせや学会参加・発表などのための旅費も必須である。これには年間約20万円程度を見込んでいる。その他、論文発表のための印刷費(年間約10万円)や受託解析費用(年間約10万円)などの経費を加算し、平成27年度の研究費として総額約140万円を使用する予定である。なお、前年度の繰り越し分についても、平成27年度の物品費に上乗せし、経済的かつ合理的な執行に努めることとする。
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Biochem Biophys Res Commun.
巻: 453 ページ: 356-61.
10.1016/j.bbrc.2014.09.089.
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