研究課題
本研究は、抗酸化酵素ペルオキシレドキシン2(Prx2)の酸化還元リズムの同調機構について調べた。過酸化水素によりPrx2のシステイン残基(Cys-SH)は酸化(Cys-SOH)、あるいは過酸化(Cys-SOOH)され、スルフィレドキシン(Srx)により過酸化型Prx2は酸化型Prx2に還元される。Prx2の酸化還元リズムは、過酸化型Prx2とSrxの結合に由来する生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を一週間に亘って測定したものである。申請時はPrx2とSrxのプローブタンパクを赤血球に直接導入する計画であったが、リポフェクションやエレクトロポレーションによるタンパク質導入では脂質融合や穿孔形成で細胞膜が脆弱になり、赤血球は数日で死滅してしまった。一方、有核細胞である赤白血病細胞株K562にPrx2とSrxのプローブタンパクをコードする遺伝子を導入した場合は、細胞分裂によって細胞膜の損傷が回復するため、これを測定の対象とした。遺伝子導入したK562を酪酸ナトリウムで赤芽球系細胞に分化させ、32度12時間、37度12時間を1週間繰り返す温度サイクルで培養すると、高温期の終わりに過酸化型Prx2のピークがくる概日リズムが得られた。この細胞をさらにサイトカラシンBで脱核させると、明瞭な正弦波の酸化還元リズムを呈する疑似赤血球を得ることができた。以上の結果より、生体内においても高体温期に産生される過酸化水素がPrx2の酸化還元リズムを同調していると推測できる。過酸化水素とPrx2の反応は非常に速いため、Prx2の酸化還元リズムを測定することで、内因性の過酸化水素の産生リズムを間接的に推定できる。平成29~31年度の科研費基盤研究(C)「抗酸化物質の飲み頃を探る」では、本研究の成果である疑似赤血球を用いて、睡眠時無呼吸症候群の患者の赤血球の酸化還元リズムを測定する計画である。
すべて 2017
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Transl Psychiatry
巻: 7 ページ: e1106
10.1038/tp.2017.75