研究実績の概要 |
背景:低酸素性肺高血圧症は慢性肺疾患の進行期に合併し,しばしば予後不良とされることから詳細な病態解明が求められている。その中で一酸化窒素(NO)は肺高血圧症において重要な役割を果たすとされるが,生体内におけるNOの詳細な役割については十分に解明されていない。 方法及び結果:8週齢の野生型マウス(WT),3種のNOSシングルノックアウトマウス, NOS完全欠損マウスをそれぞれ低酸素環境下で3週間飼育後に比較し,その機序について検討した。(ⅰ) 低酸素暴露を行ったところ5種類全てのマウスで肺高血圧を示唆する所見を認め,NOS完全欠損マウスははるかに重度であった。(ⅱ) この機序を解明する目的で血中の骨髄由来平滑筋前駆細胞数を調べたところ,NOS完全欠損マウスではWTマウスと比較し増加していた。さらに緑色蛍光蛋白質(GFP)を過剰発現させたマウス由来の骨髄細胞をNOS完全欠損マウスに移植したところ低酸素暴露後の肺血管リモデリング部位にGFP蛍光が多く認められ,骨髄由来細胞が肺血管リモデリングに関与していることが示唆された。(ⅲ) 次にNOS完全欠損マウスとWTマウスを用いて骨髄置換実験を行い骨髄NOS系の役割を検討した。WTマウス由来の骨髄細胞を移植したNOS完全欠損マウスはNOS完全欠損マウス由来の骨髄細胞を移植したマウスと比較し肺高血圧は軽減し,逆にNOS完全欠損マウス由来の骨髄細胞を移植したWTマウスではWTマウス由来の骨髄細胞を移植したマウスと比較して増悪していた。 結論:NO/NOSは低酸素性肺高血圧症の成因に中心的役割を果たしていることが示唆され,特に骨髄由来平滑筋前駆細胞や骨髄NOS系はその成因に関与していることが考えられた。
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