研究課題
WNT10Aは細胞分化・増殖に関与するWNT/βカテニンシグナルのリガンドであり線維化において重要な役割を担っているが,特発性肺線維症の病態における知見は未だにない.特発性肺線維症は,平均生存期間が3ないし5年程度の予後不良な疾患であるが,その死因は,慢性呼吸不全の進行,急性増悪,肺癌が大多数を占める.特発性肺線維症の経過中に生じた肺癌の治療においても,抗がん剤による薬剤性肺障害や,放射線治療による放射線肺臓炎が生じることも多く,また手術ののちに生じる,術後急性増悪は致死率も高く臨床的に喫緊に克服すべき重要な病態である.今回われわれは,肺癌を併発した特発性肺線維症症例における肺組織中のWNT10Aの発現を確認し,その寡多と急性増悪をはじめとした術後の経過への関連性を調査することを目的としている.検討の方法としては,肺癌の手術を受けた特発性肺線維症症例において,その手術において摘出した肺標本の,癌の病巣とは距離をおいた背景肺の部分において,WNT10Aの発現を免疫染色を実施した.結果として,免疫染色において,WNT10A陽性細胞が10%を越える群(WNT10A陽性群:n=13例)と,10%未満の群(WNT10A陰性群:n=17)とで,それぞれの生命予後を生存曲線により比較したところ,WNT10A陽性群の予後が有意差をもって悪いということが判明した.なお,その死因の多くは急性増悪であり,WNT10Aの強発現は急性増悪の発症と生命予後を不良を占う因子であることが確認できた.今回のわれわれの検討は,予後不良の特発性肺線維症の病態を解明していく過程において意義のある取り組みとなるものと考えている.
2: おおむね順調に進展している
残り1年を残し共同研究者の小田桂士を筆頭著者として論文を投稿している.
今回の取り組みは,過去の検体を用いた免疫染色と,後ろ向きの観察研究である.明確なプロトコールのもと,多施設による前向きな検証作業が必要と考えている.
予備実験を含めて,本研究費を受諾する以前に取り組んでいた検討が,スムーズに成果をあげたため,当初の予定よりも少ない使用となった.
WNT10Aの強発現は,特発性肺線維症を基礎疾患とした肺がん患者において,術後の予後不良因子であることが確認できた.WNT10Aを標的とした創薬という観点での研究の展開をすすめている.
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巻: 15 ページ: 109
10.1186/s12931-014-0109-y.
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